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教育基本法改正法案に反対する総会決議
2006年(平成18年)5月20日
埼玉弁護士会

 今年4月28日、政府は、教育基本法改正法案(以下「改正法案」という)を国会に提出した。しかし、この改正法案は、現行憲法及び現行教育基本法の理念に照らし、看過できない問題点を含むものである。
 改正法案は、第2条において「教育の目標」を掲げ、そのなかに「伝統と文化を尊重し、それをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」態度を養うことを含ませている。このことは子どもに一定の価値観にもとづく愛国心を持たせることを国の教育目標の一つとすることに他ならない。
 改正法案は、さらに第16条の「教育行政」に関して、現行法10条1項の「教育は国民全体に対し直接の責任をもって行われるべきものである」との規定を削除し、それに代えて「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」との文言を加え、政府及び地方公共団体に対し、「教育振興基本計画」の策定を義務づけている。第2条を受けたこの規定により、教育現場では子どもに対する「愛国心」教育が実施され、国旗掲揚、国歌斉唱の強制が一段と強められる危険性が大きい。
 愛国心については、愛国心を個々人が持つこと自体は、それが自然な気持ちである場合には否定すべきものではない。しかし、愛国心の持ち方は、それを持たないことをも含めて個人の自由であり、これを法律によって強制する場合には、現行憲法及び現行教育基本法の最も基本的な価値である「個人の尊厳」への介入になるし、「思想良心の自由」(憲法19条)の侵害にもなる。また、愛国心を持つ持たないについて、個々人の意見の違いを認めないことはこの国の民主主義を否定することに等しい。
 改正法案には、上記の愛国心の問題のほか、前文に「公共の精神を尊び」「伝統を承継し」などの文言が新たに盛り込まれるなど、教育の場において公益や国益が強調され個人の価値を後退させるおそれがあること、義務教育について規定した現行法4条から「9年間」の文言を削除していることから、義務教育期間の弾力化を通じて、教育の平等及び機会均等の理念を変質させるおそれがあること、現行法5条の「男女共学」規定が削除されており、男女平等の理念を後退させるおそれがあることなどの問題点も指摘できる。
 そして何より、教育基本法は、文字どおり教育の「基本法」として、現行憲法とともに戦後60年間に営々と築き上げられた平和的民主的教育の原理を支えてきた法律である。それにもかかわらず、各界各層の広範かつ慎重な意見交換を経ないまま、与党協議会という極めて限定された密室審議をもとに作成された法案を今回提出したことは、手続的にも問題があるといわざるを得ない。
 今日、わが国における学校教育の抱える問題は、偏差値教育に示されるような過度な競争主義による差別選別教育にこそ原因があり、むしろ現行教育基本法の理念が十分生かされていないことに求められるといっても過言ではない。埼玉弁護士会では、教育基本法の改正を目指すこれまでの与党の動きに対して、会長声明を発することにより、その危険性を指摘してきたが、今般、その問題点を内包したまま国会に提出された改正法案は、教育基本法の改悪と評価せざるを得ず、本総会において、これに反対する決議を行うものである。

   
提案理由

1. はじめに 
 教育基本法は、1947年3月に施行された文字どおり教育の「基本法」である。戦前の教育への反省から個人の尊厳に重点をおいており、現行憲法とともに戦後の平和的・民主的教育の原理を支え、戦後教育の基本方針となってきた。
 ところが、1990年代後半から、教育基本法改正の論議が行われるようになり、2003年6月には文部科学大臣から諮問を受けた中央教育審議会が「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」と題する答申を提出した。
 そして、中央教育審議会の答申が提出された後、与党においては「教育基本法に関する協議会」「同検討会」が設置され、2004年6月にはその「中間報告」が公表され、さらに今年4月13日には「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(与党最終報告)」を公表した。
 政府はこの最終報告に沿って直ちに法案化作業に入り、今年4月28日、教育基本法改正法案(以下「改正法案」という)を国会に提出した。
 しかしながら、改正法案は、「伝統と文化を尊重し、それをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」態度を養うことを「教育の目標」を掲げ、教育において一定の価値観にもとづく愛国心を強要する内容であること、前文に「公共の精神を尊び」「伝統を承継し」などの文言が新たに盛り込まれるなど現行憲法の基本原理である個人の尊厳を後退させるおそれがあること、義務教育期間に弾力性を持たせようとしていること、「男女共学」規定が削除されており、男女平等の理念を後退させるおそれがあることなどの問題点が含まれている。
 当会は、過去3回にわたって(直近では今年3月1日)、与党などの教育基本法改正論議には上記のような問題点があるとして「教育基本法改正法案の上程に反対する」会長声明を発表しているが、今回の改正法案の国会提出を受け、当会として、これに反対する態度表明をする必要があるものと考える。
 以下に、改正法案に関する問題点を順次指摘する。

2.

「愛国心」の強要 
 改正法案は、第2条において「教育の目標」を掲げ、そのなかに「伝統と文化を尊重し、それをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」態度を養うことを含ませている。このことは子どもに一定の価値観にもとづく愛国心を持たせることを国の教育目標の一つとすることに他ならない。
 改正法案は、さらに第16条の「教育行政」に関して、現行法10条1項の「教育は国民全体に対し直接の責任をもって行われるべきものである」との規定を削除し、それに代えて「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」との文言を加え、政府及び地方公共団体に対し、「教育振興基本計画」の策定を義務づけている。第2条を受けたこの規定により、教育現場では子どもに対する「愛国心」教育が実施され、国旗掲揚、国歌斉唱の強制が一段と強められる危険性が大きい。
 愛国心については、愛国心を個々人が持つこと自体は、それが自然な気持ちである場合には否定すべきものではない。しかし、愛国心の持ち方は、それを持たないことをも含めて個人の自由であり、これを法律によって強制する場合には、現行憲法及び現行教育基本法の最も基本的な価値である「個人の尊厳」への介入になるし、「思想良心の自由」(憲法19条)の侵害にもなる。また、愛国心を持つ持たないについて、個々人の意見の違いを認めないことはこの国の民主主義を否定することに等しい。

3.

「個人の尊厳」の後退
 改正法案は、現行法前文にある「(日本国憲法の)理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」との文言を削除しているが、これは現行法が日本国憲法と一体のものとして「世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した」姿勢を弱めることになる。
 また、改正法案は、前文に「公共の精神を尊び」「伝統を承継し」などの文言が新たに盛り込むとともに、現行法1条の教育の目的から「個人の価値をたっとび」と「自主的精神に充ちた」という文言を削除している。ここには教育の場において、公益や国益を強調して個人の価値を後退させようとする意図が窺える。 

4. 「教育の平等・機会均等」「男女平等の理念」の変質
 改正法案は、義務教育について規定した現行法4条から「9年間」の文言を削除していることから、義務教育期間の弾力化を通じて、教育の平等及び機会均等の理念を変質させるおそれがある。また、現行法5条の「男女共学」規定が削除されており、男女平等の理念を後退させるおそれがある。
5.

「教育の独立・中立」の変質  
 改正法案は、上記2でもふれたとおり、第16条の「教育行政」に関して、現行法10条1項の「教育は国民全体に対し直接の責任をもって行われるべきものである」との規定を削除し、それに代えて「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」との文言を加え、政府及び地方公共団体に対し、「教育振興基本計画」の策定を義務づけている。このことは上記2の愛国心の問題だけにとどまらず、国家による教育内容への介入、統制を促進し、現行法10条の保障する「教育の独立・中立」を脅かすのではないかとの懸念を抱かせる内容である。

6.

手続的な問題
 上記の与党最終報告は、2003年6月に設置された「検討会」において、精力的な議論を積み重ねたうえで取りまとめたものとされるが、この間、2004年6月に中間報告が公表されたことを除いては、全て非公開に議論が進められており、国民に向けて開かれた議論が行われたとは言い難い。
 冒頭に指摘したとおり、教育基本法は、現行憲法とともに戦後の平和的・民主的教育の原理を支え、戦後教育の基本方針となってきた法律である。この法律がこの国の教育水準を向上させ社会発展の原動力となったことは疑いようもない。そのような法律に関し、各界各層の広範かつ慎重な意見交換を経ないまま、与党協議会という極めて限定された密室審議をもとに改正法案を作成し今国会に提出したことは、手続的にも問題があるといわざるを得ない。

7. 結語
 今日、わが国における学校教育の抱える問題は、偏差値教育に示されるような過度な競争主義による差別選別教育にこそ原因があり、むしろ現行教育基本法の理念が十分生かされていないことに求められるといっても過言ではない。
 当会は、教育基本法の改正を目指すこれまでの与党の動きに対して、これまで会長声明を発することにより、その問題点を指摘してきたが、今般、その問題点を内包したまま国会に提出された改正法案は、教育基本法の改悪と評価せざるを得ない。よって、当会として、これに反対する態度表明をする必要があると考えるものである。

以上


 
   
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