今年4月28日、政府は、教育基本法改正法案(以下「改正法案」という)を国会に提出した。しかし、この改正法案は、現行憲法及び現行教育基本法の理念に照らし、看過できない問題点を含むものである。
改正法案は、第2条において「教育の目標」を掲げ、そのなかに「伝統と文化を尊重し、それをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」態度を養うことを含ませている。このことは子どもに一定の価値観にもとづく愛国心を持たせることを国の教育目標の一つとすることに他ならない。
改正法案は、さらに第16条の「教育行政」に関して、現行法10条1項の「教育は国民全体に対し直接の責任をもって行われるべきものである」との規定を削除し、それに代えて「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」との文言を加え、政府及び地方公共団体に対し、「教育振興基本計画」の策定を義務づけている。第2条を受けたこの規定により、教育現場では子どもに対する「愛国心」教育が実施され、国旗掲揚、国歌斉唱の強制が一段と強められる危険性が大きい。
愛国心については、愛国心を個々人が持つこと自体は、それが自然な気持ちである場合には否定すべきものではない。しかし、愛国心の持ち方は、それを持たないことをも含めて個人の自由であり、これを法律によって強制する場合には、現行憲法及び現行教育基本法の最も基本的な価値である「個人の尊厳」への介入になるし、「思想良心の自由」(憲法19条)の侵害にもなる。また、愛国心を持つ持たないについて、個々人の意見の違いを認めないことはこの国の民主主義を否定することに等しい。
改正法案には、上記の愛国心の問題のほか、前文に「公共の精神を尊び」「伝統を承継し」などの文言が新たに盛り込まれるなど、教育の場において公益や国益が強調され個人の価値を後退させるおそれがあること、義務教育について規定した現行法4条から「9年間」の文言を削除していることから、義務教育期間の弾力化を通じて、教育の平等及び機会均等の理念を変質させるおそれがあること、現行法5条の「男女共学」規定が削除されており、男女平等の理念を後退させるおそれがあることなどの問題点も指摘できる。
そして何より、教育基本法は、文字どおり教育の「基本法」として、現行憲法とともに戦後60年間に営々と築き上げられた平和的民主的教育の原理を支えてきた法律である。それにもかかわらず、各界各層の広範かつ慎重な意見交換を経ないまま、与党協議会という極めて限定された密室審議をもとに作成された法案を今回提出したことは、手続的にも問題があるといわざるを得ない。
今日、わが国における学校教育の抱える問題は、偏差値教育に示されるような過度な競争主義による差別選別教育にこそ原因があり、むしろ現行教育基本法の理念が十分生かされていないことに求められるといっても過言ではない。埼玉弁護士会では、教育基本法の改正を目指すこれまでの与党の動きに対して、会長声明を発することにより、その危険性を指摘してきたが、今般、その問題点を内包したまま国会に提出された改正法案は、教育基本法の改悪と評価せざるを得ず、本総会において、これに反対する決議を行うものである。