2017.12.25

さらなる生活保護基準引下げの提案に反対する会長声明

  1. 厚生労働省は、2017年12月8日の第35回生活保護基準部会において、2018年度から生活扶助基準本体や母子加算を大幅に引き下げる方針を示した。
    今回の厚生労働省の方針は、2004年からの老齢加算の段階的廃止、2013年からの削減総額670億円にも及ぶ大幅な生活扶助基準の段階的な引下げ(平均6.5%、最大10%)、2015年からの住宅扶助基準・冬季加算の引下げに続くものであり、最大で13.7%もの削減となる世帯(夫婦子2人世帯)も生じ得る生活扶助費本体の大幅な引下げと、平均2割削減の可能性のある母子加算の引下げを内容とするものである。
    この点、厚生労働省は、2017年12月14日、当初案を見直し、生活扶助費の下げ幅を最大5%に縮める方向で検討に入ったといわれる。しかし、この見直し案によっても、生活扶助費については、夫婦子2人世帯で現行の金額から月9000円以上の引下げ、子2人の母子世帯で現行の金額から月7500円以上の引下げ、60歳から69歳の高齢夫婦世帯で現行の金額から月5900円程度の引下げ、70歳以上の単身高齢世帯で現行の金額から月3700円程度の引下げになる一方で、母子加算については、当初案を見直すことさえ検討されていないのであり、今回の厚生労働省の方針が生活保護利用世帯の厳しい生活をさらに追い詰める過酷な仕打ちであることには変わりがない。
  2. 今回の引下げは、日本国内の全世帯の所得階層を10に分けたうえで、その一番下の階層(第1・十分位層)の消費水準に合わせて生活扶助基準を引き下げるというものである。
    しかし、厚生労働省において、第1・十分位層の消費水準が「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法第25条1項)を営むのに十分なものであるか、また「最低限度の生活の需要を満たすに十分なもの」(生活保護法第8条2項)であるかについて、検証を行ったことは一度たりともないのであるから、生活扶助基準の決定の際に、第1・十分位層の消費水準との比較を行うこと自体、憲法や生活保護法の趣旨に反するものである。
    また、日本においては、生活保護の捕捉率(生活保護を利用する資格のある人のうち実際に利用している人が占める割合)が2割以下といわれており、そもそも第1・十分位層には生活保護以下の水準で生活している世帯が多数に含まれている。その結果、生活保護を利用していない低所得者層の消費水準に生活扶助費を合わせる方法による限り、生活扶助基準は、際限なく下がり続ける「引下げスパイラル」を招来することになるのであり、このような状態を放置することが憲法や生活保護法の趣旨に反することは明白である。
  3. 生活保護基準は、ナショナル・ミニマム(国民生活の最低水準)であるため、最低賃金、住民税非課税基準、就学援助などの低所得者を保護するための施策と連動していることから、生活保護基準の引下げは、生活保護を利用していない市民全体の生活水準の引下げをもたらすことになる。
  4. 憲法第25条1項は、国民に対して「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、これに基づき、生活保護法が規定されている。
    しかし、現在の生活保護基準でさえ、「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されているとはいえない。実際に、合計955名の生活保護利用者が2013年からの一連の生活扶助基準の引下げに対し、さいたま地方裁判所をはじめとした全国の29の地方裁判所において、憲法や生活保護法が保障する生存権を侵害するものとして、違憲訴訟を提起している。
    そのような中で、厚生労働省は今回、さらなる生活保護基準の引下げを提案してきたのであるから、これが憲法や生活保護法の保障する生存権を侵害することは明白である。
  5. 当会は、生活保護利用者の「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利をより一層侵害し、市民生活全般に重大な影響を及ぼす今回の生活保護基準の引下げに反対する。

以 上

2017(平成29)年12月25日
埼玉弁護士会会長  山下 茂

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