2017.08.09

カジノ推進法等実施法の整備に反対する会長声明

  1. 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成28年12月26日法律第115号,以下「カジノ推進法」という。)に基づく実施法の整備に反対するとともに,カジノ推進法の廃止を求める。理由は以下のとおりである。
  2. 2016(平成28)年12月15日に成立し,同月26日に公布,施行されたカジノ推進法は,カジノ及びこれを軸にした特定複合観光施設(以下,「カジノ等」という。)の整備の推進を目指す基本方針を定めるいわゆる基本法であり,カジノ等の設置を推進することが観光及び地域経済の振興に寄与するとの理解のもと,一定の条件の下でカジノを合法化するものである。そして,政府はカジノ等の整備の推進のために,カジノ推進法施行後1年以内に,実施法の整備等の「必要な措置」を講じることになっている(カジノ推進法第5条)。
    しかしながら,以下のとおり,カジノ推進法には多くの問題点があり,実施法の整備はなされるべきではなく,むしろカジノ推進法は廃止されるべきである。
  3. カジノ推進法は,我が国が「賭博罪」(刑法第185条)として犯罪化し,禁止している行為について,特定の者,特定の場所に限定して非犯罪化することを公認するものである。このように本来犯罪としている行為を一定の要件で,その違法性を阻却するという内容を含むものであるから,その合理性・許容性及び刑事司法政策ひいては国民の規範意識等に与える影響について,憲法14条や憲法31条なども考慮して特に慎重な議論がなされるべきであった。
    カジノ推進法は,同種法案が2013(平成25)年12月に国会提出されたものが2014(平成26年)11月の衆議院解散によって一旦廃案とされ,更に2015(平成27)年4月に再提出され,その後1年半以上も全く審議されていなかった法案である。この法案は,2016(平成28)年11月30日に衆議院内閣委員会で審議開始された後,わずか3日後に採決がなされ,その後の審理過程も反対意見をほとんど考慮することなく,直ちに可決されている。
    このような成立過程は,憲法上の問題をはらむ法案の審議としては極めて問題であり,適正な法案審議と言いがたい面を含んでいる。
  4. カジノ推進法及び実施法によって設置されるカジノにおいて行われるのはギャンブルであり,依存症患者や多重債務者増加が懸念される。このことは,公営団体が実施する賭博や景品を換金できる遊戯について,法の規制がある現在でさえ,その射倖性の高さから依存にいたる例が多く社会問題化していること,ギャンブル依存が多重債務の原因のひとつとなっていることからも容易に想定される。
    さらには,青少年の健全育成への悪影響,暴力団関与のおそれも懸念される。
    本来法案を成立させる際に,これら懸念される事項について,どのような具体的な対策があるか,それが有用な対策であるかなどについては慎重な議論が必要とされ,且つ同時に有効な具体的対策が制度として設けられるべきであった(ただし,カジノ推進法に合理性を担保するような有用な対応策が実際に存在するかは,なお疑問である)。
    にもかかわらず。カジノ推進法は,これら具体的対策を実施法等の後に議論に委ね,拙速に成立したものであり,この点でも問題である。
  5. さらに,カジノ推進法は,カジノ等を設置することにより,主として観光及び地域経済の振興に寄与するという経済的効果をその目的の一つとする。
    しかし,カジノ等を設置することによって期待どおりの経済的効果が得られるかについても検討は十分ではない。韓国や米国の先行事例では,大型カジノ施設が相次いで閉鎖されていたり,治安・風俗環境の悪化とこれに伴う人口減少,ギャンブル依存症患者や多重債務を苦にした自殺者の増加等,地域経済と市民生活への深刻なダメージが指摘されている例がある。
    これらの点についても,十分な検討がなされていない。
  6. 実施法の整備にあたっては,依存症患者や多重債務者が増加する危険性,青少年への健全育成に悪影響を与える危険性,暴力団等の反社会的勢力が関与する危険性等について十分に検討を行うことが,整備の前提として必要不可欠であるにもかかわらず,未だ十分な検討はなされていない。
  7. 以上のように,実施法の整備をする前提条件を著しく欠いているので,当会は,カジノ推進法に基づく実施法の整備に反対するとともに,あらためて拙速な審理で成立したカジノ推進法の廃止を求めるものである。

2017(平成29)年8月9日
埼玉弁護士会会長  山下 茂

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