2017.08.09

死刑執行に抗議する会長声明

  1. 2017年7月13日,大阪拘置所及び広島拘置所において各1名の死刑が執行された。当会は,かかる死刑執行に対し,強く抗議する。
    今回の執行により,金田法務大臣の下では3名の死刑が執行されたことになり,第二次安倍政権発足後約4年半で19名もの死刑が執行されたことになる。
  2. 大阪拘置所で執行された1名は,4件の殺人事件のうち3件に対し無罪を主張して最高裁まで争い,死刑判決確定後も再審請求している者であった。再審請求中は死刑を執行しない運用が17年半もの間続き,執行を回避する傾向にあったにもかかわらず,法務大臣は,死刑執行に踏み切っている。再審請求中であることを認識しながら行われたこの度の執行は,再審請求に対する判断を裁判所に委ねた再審制度そのものを軽視する態度であると言わざるを得ない。また,これにより再度の司法判断を得て本人が救済される機会を奪うことになった結果を考えると,この度の執行を容認することは到底できない。
    また,広島拘置所において執行された1名は,裁判員裁判により死刑判決を受けた者では3人目の被執行者となった。当該死刑判決は,いわゆる永山基準を乗り越えて行われたものであり,職業裁判官のみによる裁判であれば一審段階で死刑が選択されたか議論の余地がある。また,当該死刑判決は,本人自ら控訴を取り下げ確定させたものであるが,仮に控訴審又は最高裁が判断していれば当該死刑判決を維持していたのかという疑問も呈されており,裁判員裁判における量刑判断の問題点を再検討する必要のあった事案である。まさに,当該死刑判決は,日本政府が国連拷問禁止委員会の二度の勧告(2013年5月31日,2007年5月18日)にも関わらず死刑事件の義務的上訴制度を導入しなかった結果,確定したということができる。このように,今回の死刑執行は,義務的上訴制度の導入を進めなかったことにより量刑判断の問題点が再検討される前に執行された点で,無視できない問題を孕んでいると言わざるを得ない。
  3. いうまでもなく,死刑は,国家が人命を奪う究極の刑罰であり,基本的人権の核をなす生命に対する権利と真っ向から衝突するものである。誤判や冤罪の危険が常につきまとう現在の刑事司法制度の下で,死刑という判断が取り返しのつかない結果を生じさせるものであることは,過去4件の死刑確定から再審により無罪が確定した事件(免田,財田川,松山,島田事件)や,再審開始決定後48年ぶりに釈放された袴田事件から明らかとなっている。このように,死刑が究極の人権侵害を内包する刑罰である以上,基本的人権の尊重という憲法の最高価値を実現する観点からは,死刑制度の廃止に向け,全社会的な議論を尽くすことが求められている。
    日本弁護士連合会も,2011年に人権擁護大会で採択した「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め,死刑制度についての全社会的議論を呼びかける宣言」(以下,「2011年宣言」という。)に続き,2016年の人権擁護大会においても「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(以下,「2016年宣言」という。)を採択して,全社会的議論の必要性及び死刑廃止の必要性を訴えた。
    しかしながら,法務省をはじめ日本政府は,こうした要求を顧みず,死刑を執行し続けている。それだけでなく,死刑に関する情報を未だに十分に公開しない態度に終始するなどして,議論の土壌すら与えようとしない。
    このような状況の中敢行した今回の死刑執行は,人権軽視の批判を免れず,時代の要求に沿うことを拒否した国家の態度を改めて如実に示すものとして厳しく批判されなければならない。
  4. 日本弁護士連合会は,2016年宣言の後,これを実現するため死刑廃止等実現本部を設置した。当会も,2011年宣言後に死刑廃止検討プロジェクトチームを設置し,シンポジウムを開催するなどして死刑制度についての全社会的議論を呼びかけてきたが,2016年宣言後は,日本弁護士連合会に遅れず,死刑廃止実現プロジェクトチームを設置した。
  5. 死刑廃止が国際的な趨勢であり,国際社会の一員を占める日本がこれを無視してはならないことは,既に多くの弁護士会が指摘しているところであり,当会もこれまで再三に亘り指摘してきている。しかしながら,日本政府は,相変わらず,国連人権規約委員会の「死刑の廃止を十分に考慮」するよう求める勧告(2014年7月23日)や,国連総会における死刑執行の停止を求める決議(2016年12月19日)等の国際社会からのメッセージを無視し続けている。このような姿勢を続ける日本が,どのようにして国際社会において名誉ある地位を堅持できるのであろうか。
    また,死刑を法律上又は事実上廃止している国が国連加盟国(193か国)の約7割にあたる141か国にのぼり,先進国が加盟していると言われるいわゆるOECD加盟国(34か国)の中で国家として統一的に死刑を執行している国が日本を除き存在しない現実を,日本政府は恥ずべき事態として認識すべきである。
  6. 以上から,当会は,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,改めて日本政府に対し,死刑廃止の実現に向けた全社会的議論を行うこと,及び,これが尽くされるまでの間,全ての死刑執行を停止することを強く求める。

以 上

2017(平成29)年8月9日
埼玉弁護士会会長  山下 茂

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