2017.07.26

地方消費者行政に対する国の財政支援に関する意見書

2017(平成29)年7月26日
埼玉弁護士会会長  山下 茂

第1 意見の趣旨

  1. 国は,地方消費者行政推進事業実施要領(平成28年5月25日付消教地第223号)にて,「地方消費者行政推進交付金」の支出対象を平成29年度までに新たに実施する推進事業に限定している点を,平成30年度以降に新たに実施する推進事業も対象とするよう改正するとともに,その活用期間の制限を伸長して,同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。
  2. 国は,地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち,消費生活相談情報の登録事務,重大事故情報の通知事務,違反業者への行政処分事務,適格消費者団体の活動支援事務など,国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について,地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。
  3. 国は,地方消費者行政における法執行,啓発・地域連携等の企画立案,他部署・他機関との連絡調整,商品テスト等の事務を担当する職員の増員及びその資質の向上に向けて,実効性のある施策を講ずべきである。

第2 意見の理由

1 地方消費者行政推進交付金の継続

平成21年の消費者庁創設と地方消費者行政活性化交付金の導入以降,消費生活センターの設置数が501か所(平成21年度)から799か所(平成28年度)に増加し(平成29年版消費者白書252頁),平成27年度末までにすべての地方自治体が何らかの消費生活相談窓口を設置するに至るなど,地方自治体の消費生活相談体制が整備されてきた。この間,地方消費者行政活性化交付金は地方消費者行政推進交付金に変更して継続され,消費生活相談体制の整備・拡充に寄与してきた。
しかし,地方消費者行政推進交付金の実施要領を定める地方消費者行政推進事業実施要領(平成28年5月25日付消教地第223号)は,地方消費者行政推進交付金の支出対象を平成29年度までに新たに実施する推進事業に限定し,かつ対象となる推進事業の種別応じて交付金の活用期間を定めており,最も短い活用期間を定められた推進事業は3年で活用期間が終了する場合がある。そのため,平成30年度以降の新規事業や,活用期間が終了する事業は,地方自治体の自主財源によって行わざるを得ない現状にある。一方で,地方消費者行政関係予算における地方自治体の自主財源は,平成20年度125億円であったものが,平成27年度119億円,平成28年度120億円となっており(地方消費者行政の充実・強化に向けた今後の支援の在り方に関する検討会第1回資料4-1),減少または横ばい傾向にあって,地方消費者行政推進交付金に代わって,地方消費者行政の体制整備・拡充を支えるだけの自主財源の確保が困難であることが明らかである。
そうすると,地方消費者行政推進交付金の実施要領を改正し,平成30年度以降の新規事業を地方消費者行政推進交付金の対象事業とし,かつ同交付金の活用期間を伸長しなければ,各地方自治体の財政事情によって地方消費者行政の体制整備・拡充が図られない結果となりかねず,地方消費者行政の体制縮小を余儀なくされるおそれもあるといえる。また,消費者庁は平成28年4月施行の改正消費者安全法で規定された消費者安全地域協議会を人口5万人以上の全市町(516自治体)に設置する目標を掲げているが,平成29年1月時点で21市の設置にとどまっており,高齢者等の見守りに向けて動き始めたばかりの取組みが阻害されるおそれもある。こうした結果は,現時点の地方自治体間での取組みの格差を固定化するおそれがあり,ひいては地方消費者行政の必要最低限の体制整備(ナショナルミニマム)が確保できない事態を招くおそれがある。
現に,全国知事会等の地方公共団体関連4団体及び埼玉県を含む20都道府県は,地方消費者行政推進交付金等による財政支援の継続を要望しており,地方消費者行政推進交付金の対象事業や活用期間の拡大・伸長は,地方の実情に沿うものである。
したがって,地方消費者行政推進交付金の実施要領を改正し,平成30年度以降に新たに実施する推進事業も交付金の対象とするとともに,その活用期間の制限を伸長すべきである。そして、交付金の実施期間は,これまで8年間の地方消費者行政に対する交付金の給付によっても最低限の体制整備が未達成であることに鑑み,同交付金を少なくとも今後10年程度は継続する必要がある。

2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担

地方自治体が当該地域の消費者の相談を受け付けて助言する活動は,基本的には当該自治体の役割といえる。しかし,消費生活相談において,その相談情報をPIO-NETに登録する事務や,消費者安全法に基づく重大事故情報を通知する事務は,当該情報が全国で共有され,悪質業者の排除等の法執行に活用される点で,国の事務の一端を担うものといえる。また,適格消費者団体は,消費者契約法,特定商取引法,景品表示法等の違反行為の差止請求業務を通じて,全国の市場の適正化を図っており,これも国の事務の一端を担っているといえる。
したがって,国は,地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち,消費生活相談情報の登録事務,重大事故情報の通知事務,違反業者への行政処分事務,適格消費者団体の活動支援事務など,国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について,地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。
なお,適格消費者団体への国の財政支援は,地域の民間団体の実情に応じて支援する必要があるため,基本的に都道府県を通じた支援として実施することが相当である。

3 地方消費者行政職員の増員と資質向上

地方消費者行政における担当職員は,法執行,啓発・教育,地域連携の企画推進分野,他部署・他機関との連絡調整,商品テスト等の事務など,多様な課題を担う必要がある。他方で,平成21年に消費者庁が創設された以降も,地方自治体の消費者行政担当職員はほとんど増えていないことに加え,消費者問題の分野について担当職員への研鑽の機会が十分に与えられていないなどの職員体制の未整備により,業務停止命令や指示などの法執行件数は増加しないばかりかむしろ減少しており(消費者庁「特定商取引法に基づく処分件数の推移」),職員の役割が十分に果たせていない。
そこで,国は,地方消費者行政における各種事務を取り扱う担当職員の増員及びその資質の向上に向けて,消費者行政担当職員の配置の目安を示したり,研修制度を強化するなどの実効性のある施策を講ずべきである。

以 上

戻る