2017.03.28

福島原発事故による避難者の損害賠償請求訴訟前橋地裁判決を受けての会長談話

3月17日、前橋地方裁判所は、全国で起こされている東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)事故による被害の賠償を求める集団訴訟の中で初となる判決を言い渡した。
本判決は、福島第一原発事故の原因について詳細に判示するとともに、東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)は、遅くとも2002年には、福島第一原発の敷地地盤面を優に超え、非常用電源設備を浸水させる程度の津波が到来して原発事故が起きうることを予見しえ、また2008年5月にはこれを実際に予見していたのに、その後も何ら結果回避措置を講じなかったことは特に非難するに値すると断じた。その上で、国について、東京電力に対して結果回避措置を講じるよう規制権限を行使すべきであったのにこれを行使しなかったとして、国に対して規制権限不行使の違法を認定した。
本判決は、福島第一原発事故により被害を受けた住民に対して、国が直接的な責任を負うことを認めたものであり、埼玉を含め全国各地に避難している全ての被害者の救済のため、この判決は極めて大きな意義を持つと評価できる。また、被害者の慰謝料額の算定に当たり、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針等に賠償基準としての規範性を否定し、これを上回る損害を認めた点も評価できるところである。
もっとも、本判決が、本件事故による損害の大きさを十分斟酌したものといえるかどうかは大いに疑問がある。当会は、福島第一原発の事故の発生直後から、この事故により埼玉への避難を余儀なくされた人々に対して、自治体とも連携しつつ県内各地で支援活動を行ってきた。原発事故により郷里を追われて以降、現在まで十分な支援を受けずに避難生活を継続している被害者一人一人の悲しみや辛さをみたとき、本判決により被害者の苦難が適切に評価され、十分な被害回復がなされるとは認められない。
当会は、国と東京電力に対して、被害者の損害拡大を防止し、被害者の損害の早急な回復に努めるよう求めるとともに、国に対しては、本判決を真摯に受け止め、この事故により平穏に生活する権利を侵害された被害者の権利回復のため、抜本的な救済施策を採るよう求める。とりわけ本年3月末での応急仮設住宅と民間借り上げ住宅の無償提供の打切りについては、被害者の損害拡大を防止すべく、直ちにこれを撤回することを求める。

以 上

2017(平成29)年3月28日
埼玉弁護士会会長  福地 輝久

戻る