会長声明および決議書・意見書
2020.05.14
いわゆる「販売預託商法」に関する法整備についての意見書
2020(令和2)年5月14日
埼玉弁護士会会長 野崎 正
第1 意見の趣旨
- 販売預託商法を規制する法制度の在り方を検討するに当たっては,内閣府消費者委員会の2019年(令和元年)8月30日付け「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見」(以下,「委員会意見」という。)の具体的提言内容を反映させ,併せて,以下の諸規制を導入すべきである。
(1) 投資取引という実態に即した広告規制,行為規制,不招請勧誘の禁止及び実効性確保のため,行政規制,罰則,民事規定の整備
(2) 登録制の導入 - 前項の実施に併せて,行政による破産申立権につき検討を行い,販売預託商法に対する規制として,消費者庁による破産申立制度の導入を早期に実現すべきである。
- 販売預託商法を規制する法制度の整備に併せて,同法に定める罰則対象禁止行為及び無登録営業の各罰条該当行為につき,組織犯罪処罰法の犯罪収益没収規定(同法第13条第1項)及び被害回復給付金支給制度(犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律第3条)の適用対象とするよう立法措置を講ずるべきである。
第2 意見の理由
1 はじめに
当会は,いわゆる販売預託商法[1]による大規模被害が繰り返されている状況に鑑み,2018(平成30)年6月19日付け「商品預託取引の被害防止に関する意見書」を発出し(以下,「当会意見書」という。),販売預託取引を金融商品取引法(以下「金商法」という。)の集団投資スキーム(同法2条2項5号,政令1条の34号,定義府令5条)に位置付けて登録制を含む規制対象とすべきことを提言した。
内閣府消費者委員会は,2019(令和元)年8月30日付け「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての建議」(以下,「委員会建議」という。)及び委員会意見を発出し,消費者庁が所管する独立の販売預託商法規制法を検討すべきことを提言した。
また,日本弁護士連合会は,2020(令和2)年1月17日付け「内閣府消費者委員会「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての建議」及び「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見」についての意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を発出し,消費者庁所管の法律とする場合に盛り込むべき法制度を提言した。
本意見書は,委員会意見等が発出されたことに鑑み,当会意見書を踏まえた上で,販売預託商法に対する独立の法制度とする場合における被害防止の実効性ある法規制の在り方について意見を述べるものである。
2 意見の趣旨1(委員会の具体的意見の反映等)について
(1) 委員会建議及び委員会意見の概要
委員会建議は,建議事項1において,消費者庁に対し,物品等の販売から始まる預託取引及びこれと類似の商法に係る法制度の在り方や体制強化を含む法執行の在り方について検討を行うことを求めている。
委員会意見は,委員会建議事項1のうち,いわゆる「販売預託商法」に係る法制度・法執行の在り方について具体的規制内容を提言している。
具体的には,①商品の販売とその預託を組み合わせた「販売預託取引」を規制対象とし,②現物まがい取引[2]の罰則による禁止及び民事的無効,③元本保証の禁止,④取引の適正性・規制の実効性を確保するための措置の整備,⑤犯罪収益の没収・被害回復制度の整備,⑥参入規制の導入である。
(2) 消費者庁の見解
消費者庁は,委員会建議及び委員会意見について,2019(令和元)年8月22日の第307回消費者委員会本会議において見解を示している(以下「消費者庁見解」という。)。
消費者庁見解は,販売預託商法による消費者被害について問題意識を共有しているものの,①「販売預託取引」を規制対象とすることについて,販売預託商法による消費者被害の主因は消費者への虚偽の説明・勧誘等によってなされる訪問販売や連鎖販売取引等を通じた高額の負担を消費者にさせることにあり,「商品を売って預かる」という行為自体に問題の本質があるものではない,②禁止行為等の法定について,第一に必要なのは現行の特定商取引法等の法令に基づく執行強化及び体制整備であると考えている,③参入規制を設けることについては適切ではないと考える,という消極的なものであった。
(3) 委員会意見を反映すべきであること
ア「販売預託取引」を規制対象とすべきであること
(ア)販売預託商法被害を惹起する本質的問題点
豊田商事事件,安愚楽牧場事件,ジャパンライフ事件に代表される悪質な販売預託商法に共通する本質的問題は,委員会建議等で指摘されているとおり,物品等を販売すると同時に預かると説明しつつ,実際には物品等が存在しない(①物品欠缺),当該物品等を運用する事業の実態がなく,早晩破綻することが明らかであるにもかかわらず(②事業実態の欠缺),高い利率による利益還元が受けられる,あるいは販売価格と同額での買取りにより元本を保証すると説明して取引に誘引する点で(③元本保証),消費者を二重に欺いて」いる点にある。
(イ)「販売預託取引」を規制対象とすることの意義
消費者庁見解は,「商品を売って預かる」という行為自体に問題の本質はないとする。
しかし,「商品の販売契約」と「商品を預かって運用し配当する預託契約」を組み合わせることによって,顧客が手持ち商品を預託する場合と異なり,消費者から資金を拠出させて利益配当をするという投資取引の性質を有することとなる。しかも,販売・預託の対象である商品の物理的移転が無いため,①物品欠缺のまま取引を行うことが可能となり,②事業実態が無くとも,新規顧客から受領した販売代金を既存顧客の配当等に充てることであたかも事業実態があるかのように誤認させ(現物まがい商法の特質),実質的破たん状態となった後も新規顧客を勧誘し続けることで配当を継続し,被害者の被害申告を遅延させることが可能となる。
すなわち,大規模被害を生じさせる悪質な販売預託商法は「商品を売って預かる」販売預託取引によって初めて可能となるのである。
このように,悪質な販売預託商法の本質的問題である①物品欠缺及び②事業実態の欠如は,販売預託取引という取引類型により初めて惹起される事態であり,販売預託取引を規制対象とすることが販売預託商法の被害を防止する直接かつ有効な手段である。
また,消費者庁見解は,販売預託取引を規制対象とすることについて,「悪質な事業者が規制から逃れる可能性がある一方で,形式的に当てはまる事業者への負担が増すこととなり,規制としての合理性が乏し」くなるおそれを指摘する。
しかし,脱法行為の危険については,規制対象の定義を工夫し(後述する),物品等の販売と当該物品等の預託が当事者を異にして一体的に行われる場合や,物品等の販売に仮想通貨が用いられ,交換の法形式で行われる場合や,「預託」という契約形式による定義でなく「拠出」という経済的実質による定義を用いる等,形式的に潜脱しようするものについても規制の対象に含めるよう定義することなどにより危険性を排除すべきであり,過去に大規模被害を生じさせている商法に対する直接かつ有効な法規制を見送る実質的理由にはならない。
具体的には,販売預託取引を定義するにあたり,指定商品制は採用せず,「販売」と「預託」を組み合わせる取引を対象とし,預託期間の制限は設けず,金商法の「集団投資スキーム」を参考に,例えば,「物品その他の財産権の販売等と一体として,販売した物品その他の財産権の拠出を受け,これを用いた事業に伴う利益を提供する仕組みの取引」とするなど,契約形式に拘らず取引実態をみる定義を設けるべきである。
現行預託法の改正という観点からは,現行預託法は規制対象を「指定商品を,3か月以上預託を受け,これに伴う利益を提供する取引」と規定しているところ,①指定商品制を廃止すべきであり,②販売と預託を組み合わせる取引を対象とし,③「3か月以上」の要件を撤廃し,④「預託」という契約形式に限定しないことなど,取引実態による定義を設けるべきである。
そして,消費者庁見解が指摘する「形式的に当てはまる事業者への負担が増す」おそれは,抽象的形式的な危惧に過ぎず,逆にシェアリングエコノミー協会事務局による2019(令和元)年7月26日消費者委員会における発言では,「シェアエコ業界で何パーセントぐらい(販売)預託ビジネスに近いものがあるかというと,私の肌感覚で恐縮ですけれども,現時点では本当に1%もない,多分ゼロではないかと思っています。」(同委員会議事録11頁)と回答しているなど,実際に「商品を売って預かる」販売預託取引を行う事業者を規制対象とすることにより事業者の負担が増すという具体的な危険はほとんど考えられず,過剰規制のおそれはない。むしろ,販売預託取引が投資取引の性質を有するものであることを踏まえれば,金融商品取引法や信託業法等と比較してみても登録制を含む一定の法規制の対象とすることは必要である。
以上のとおり,販売預託商法による被害を防止するためには,販売預託取引という取引類型を規制対象とすることが必要である。
イ 現物まがい取引の罰則による禁止及び民事的無効と定めるべきこと
(ア)現行法制の執行強化では被害を十分に防止できないこと
消費者庁見解では,「第一に必要なのは現行の特定商取引法等の法令に基づく執行強化及び体制整備である」とされている。
消費者庁の法執行体制をさらに強化する必要があることは異論のないところであるが,販売預託商法による大規模被害は長年にわたり繰り返されており,2019(令和元)年8月に内閣府消費者委員会が作成した「いわゆる「販売預託商法」に関する消費者問題についての調査報告」(以下「委員会調査報告」という。)によれば,豊田商事事件以降の主な事件だけで被害額は合計1兆円を超えている。預託法は豊田商事事件(1985年破綻)の翌1986年に制定されたが,こうした大規模被害の状況を見れば被害防止の実効性がないことは明白である。
ジャパンライフ事件では,消費者庁がジャパンライフに対し1年間に4回もの業務停止命令を発したにも関わらず,ジャパンライフが利益配当を継続しながら顧客を囲い込んで事業を継続し,被害が拡大したことは記憶に新しい。つまり,法執行体制の問題以上に販売預託商法に関する現行法規制の限界を露呈している。
また,現行の特商法等では,店舗販売,通信販売等に対しては,法規制が及ばず行政庁による執行が及ばない。しかも,販売預託商法事案のうち八葉物流事件,近未来通信事件,安愚楽牧場事件はいずれも通信販売であって,勧誘行為規制によって対処できるものではない。
(イ)現物まがい取引を罰則により禁止し,民事上無効とする根拠
委員会意見は,現物まがい取引を罰則付きで禁止することで悪質な販売預託商法の摘発を容易化し,かつ,被害者救済制度に繋げる,現物まがい商法等を民事上も無効とすることにより被害者からの契約離脱・返金請求を容易化する,ことを挙げている。
委員会意見が現物まがい取引として禁止行為に摘示している3類型は,現物の裏付けを欠く場合であり,委員会建議が指摘する販売預託商法の本質問題点である「物品欠缺」の典型例であると言える。ただし,テレビ電話のアプリケーション位置USBの販売+預託による利益配当を掲げたWILL事件の場合,契約件数に見合うUSBは保有していた可能性が高いが,これを装着して貸与するテレビ電話機の貸与数量は全く欠如していたことに照らし,物品欠如だけでなく「運用欠如」も規制対象とすべきである。
また,ジャパンライフ事件にも見られるように被害者の被害申告が遅れる傾向にあること,預託販売商法の被害者は高齢者が多く,被害者による具体的勧誘状況の再現が困難であることから,不当勧誘行為の規制にかかる法執行には限界がある。
そのため,現物まがい取引の禁止を定め,物品欠缺及び運用欠如等の客観的要件に基づいて直接に処罰対象とすることにより,悪質な販売預託商法に対する行政規制の実効性確保及び刑事責任追及の容易化・迅速化が期待でき,法執行の強化として有効である。
そして,現物まがい取引の禁止規定に違反した場合の罰則の法定刑は「10年以下の懲役」とすべきである。なぜなら,現物まがい取引が大規模被害に発展する最大の要因は,顧客から物品を預かって運用するという取引形態を装うことにより,あたかも適法な事業でありかつ取引高に見合う現物を保有し運用しているという信頼感を利用して,多数の消費者から資金を集めることができたことであり,このような偽装による営業活動は実質的に詐欺罪に等しい違法性を有するものというべきだからである。過去の現物まがい商法被害に対する詐欺罪の立件の実情を見ると,早い段階から現物の保有・運用を欠く詐欺的営業活動を継続していたにもかかわらず,事業者が償還不能であることを認識していたか否か(詐欺罪の故意の成立時期)によって,詐欺罪の立件及び認定時期が遅れるという問題を繰り返してきたといえる。したがって,客観的には詐欺行為に等しい違法行為であり,かつ過去の大規模被害を繰り返してきた事実からみて詐欺罪と同等の10年以下の懲役刑が相当だからである。また,これと並行して,組織犯罪処罰法の適用対象とし,犯罪被害財産の還付制度に繋げることが求められる。
また,現物まがい取引については,「取消しができる」という規定では,被害者は配当が続く間は取引実態の把握が困難であるため契約の有効性及び取り消すべきか否かの判断が困難であること,現物の保有・運用を欠く取引は無効であるという評価を明確に規定することによって,消費者に対する啓発・助言が容易になることなどに照らし,現物まがい取引は無効であるとの規定を設けるべきである。同様の規定として,未公開株を無登録業者が販売した場合について無効と規定する例が存在する(金商法171条の2)。
ウ 元本保証を禁止すべきであること
委員会意見は,実質的な元本保証を禁止することにより経済的合理性に乏しいスキームを抑止することを提案している。
販売預託商法被害を惹起する本質的問題点の一つとして元本保証を行うことにより消費者がリスクを誤認し,安全確実な取引であると信じて取引に入ることが挙げられる。元本保証は投資取引の本質に反して消費者を誤認させるおそれがあり,かつ運用する事業者にとっては破綻のおそれが強い取引条件となるため,金融商品取引法は元本保証の一形態である損失補てん行為について罰則をもって禁止している(同法39条1項,198条の3)。また,出資法は,名目の如何を問わず,元本以上の支払いを約束する預貯金と同様の経済的性質を有する金銭の受け入れを「預り金」として規定し(出資法2条2項2号),特別法による許可を受けない預り金業は罰則をもって禁止している。したがって,販売預託商法についても,実質的に元本保証を伴う取引は罰則をもって禁止することが必要不可欠である。
もっとも,委員会意見は,実質的元本保証の要件として「将来,事業者が物品等の買取りを行う場合に,販売代金の全額又はこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を示すこと」と定義しているところ,過去の事例では,将来の物品買取の際の元本償還保証のみならず,運用期間中の配当利益と併せることにより元本額以上を保証するという形態で実質的元本保証をうたうものも存在している[3]。出資法はこのような場合でも適用の余地があることに徴すれば,委員会意見の定義では,現行法制よりも限定した行為規制となってしまい不合理である。したがって,禁止されるべき実質的元本保証として,物品買取の際の元本償還保証のみならず,運用期間中の配当利益として元本額以上を保証するという形態も包摂する定義とすべきである。
エ 取引の適正性及び規制の実効性確保措置(意見の趣旨1(1))
委員会意見は,取引の適正性及び規制の実効性を確保する具体的措置の導入を求めており,例として書面交付及び説明義務,所管官庁への調査権限,クーリングオフ,中途解約権を示している。
これは,委員会意見として方向性を示したものであり,あるべき具体的規制の具体的検討を求めるものである。
そして,日弁連意見書は,委員会意見を敷衍し,委員会意見の提言に加えて,①投資取引の実態に即した広告規制,適合性原則,断定的判断の提供禁止,不招請勧誘の禁止,②取引の適正性・規制の実効性確保措置として事業計画書,事業報告書及び預託商品の保有・運用実態や利益配当見込みについての合理的根拠資料の提出,所管官庁による報告の徴取及び立入検査権限,顧客に対する業務・財務状況報告書交付義務,預託財産の分別管理義務,会計監査人による監査義務,公正妥当な企業会計基準の利用義務などの整備を提言している。
日弁連意見書の上記提言は,委員会意見を敷衍し,投資取引の実質に即した規制,及び取引の適正性及び規制の実効性を確保する具体的措置を提案するものである。その趣旨は,禁止行為の類型に直接該当せずとも経済的合理性に疑義のある事業スキームを入り口の段階で事前に排除し,恒常的なモニタリングにより不適切な業務運営を早期に覚知し,実効性ある処分により業務運営を適正化させ,改善が見込めない場合には事業継続そのものを停止せしめるため,監督官庁に必要な監督権限及び処分権限を付与すべきとするものである。
当会としても,当会意見書において,預託法の帳簿閲覧制度(同法6条)では帳簿の内容の正確性の検証ができず,ジャパンライフでは虚偽記載がされていたこと等から,一定規模以上の商品預託取引業者に対し,会計監査人監査等の監査の義務付けを導入することや,預託商法被害において事業活動中に被害者からの相談申出等による情報提供が少なく,営業実態の把握が容易ではない特質から,行政庁の報告徴取・立入調査の実効化及び適切に業務停止命令等を行うために必要な行政庁の調査・監督権限を強化する必要があることを提言し,金商法の適用により更なる監督権限及び処分権限の強化を提言していたところであり,委員会意見及びそれを敷衍した日弁連意見書の上記提言に賛成である。
オ 登録制の導入について(意見の趣旨1(2))
消費者庁は,消費者庁見解において,販売預託商法を行う事業者を対象とする参入規制を設けることは適切ではないとの考えを示している。
しかし,現物まがい取引等の悪質な販売預託商法においては,新規顧客から集めた金銭を既存顧客への配当に充てることにより,実質的破たん状態になった後も配当が継続されるため,被害者による被害申告の期待可能性は低い。実際に,ジャパンライフ事件では,消費者庁の4回にわたる行政処分が報道されたにも関わらず全国の消費生活センターへの相談件数はほとんど増えず,倒産報道がなされるに至って急増している(委員会調査報告12頁)。
そのため,販売預託商法による被害を防止するためには,被害者の申出を端緒に調査・処分に進む仕組みでは対応が遅く,事業者に参入規制を導入し,客観的な業務財務資料を開業時及び毎年度提出させるなど,被害者の申出を待たずに物品や事業の実態把握ができる法制度が必要不可欠である。
これに対し,販売預託商法に対し登録制等の参入規制を行うことは,一方では,健全な事業者に対し過剰な負担を及ぼすのではないかという意見があり,他方では,そもそも登録事業者となる正常な販売預託取引業者が想定できるのか,産業として育成すべき対象が想定できない事業について登録制による行政コストを投入する合理性があるのか,というような意見がある。
しかし,前述のシェアリングエコノミー協会関係者のコメントにあるように,手持ちの商品を預託してその有効活用と運用利益の配当を目指すシェアリングエコノミー取引と,投資取引である販売預託取引とは,全く異なる経済活動として議論すべきであり,健全な事業に対し過大な負担を課すことにはならない。
また,消費者庁が平成30年度委託調査として実施した「預託等取引に関する実態調査報告書」によれば,預託する目的物の販売者が預託事業者であるビジネスとして,海外の事例を含めると,キャンピングカーの購入+レンタル事業,太陽光発電パネルの販売+発電販売事業,果樹園の区画オーナー制度,ワインの保管委託+販売あっせん事業,ボートのサブレンタル事業,海上コンテナのサブリース事業などが存在していることが報告されている。これらの販売預託取引が,元本保証型ではなく適正な運用実績型の取引として設定されるならば,地域産業を支援するシステムや目的物の有効利用を図るシステムとして成り立つ可能性があるといえる。そして,登録制は,産業育成の目的がある場合だけではなく,不適正事業者を監視し悪質業者を早期に排除する目的でも導入されている。例えば,金融庁が所管する暗号資産(仮想通貨)交換業者の登録制は,不適正な事業者を入り口で排除する目的が強いものとして導入されたケースであり,現に同法施行当時,登録申請を行った事業者のうち,1社が登録拒否,12社が申請取下げとなり,現在登録している事業者が23社にとどまる。しかも,金融庁の登録名簿の冒頭には,「金融庁・財務省が,これらの暗号資産(仮想通貨)の価値を保証したり,推奨するものではありません。暗号資産(仮想通貨)は,必ずしも裏付けとなる資産を持つものではありません。」などと,赤字で注意表示を加えている。
したがって,不特定多数の消費者に対し代金の支払いを受けて商品等を販売し,これを拠出させて運用し利益配当を行う販売預託商法に対しては,投資取引の性質に反する元本保証型は罰則をもって禁止するとともに,運用実績型については金融商品取引業や信託業と同様に継続的監視制度として登録制の導入が不可欠である。
当会意見書において,現行預託法に参入規制が無いことから,預託取引を行う事業者に対する事前審査が無く,行政庁による監督の基礎的情報もないため,預託商法被害が発生しても速やかに被害の実態を把握することができないという問題があること等から,登録制の導入を提言していたものであり,消費者庁の所管する法律として制定する場合であっても登録制を導入すべきであると考える。
委員会意見においては届出制が例示されているが,当会としては,当会意見書に述べたところに加えて,登録制とすることにより,次のような意義があると考える。すなわち,事業開始段階で無計画な事業者を排除する余地があり,事業活動継続途中で疑義が生じた際に速やかに実態把握を行い,登録抹消により事業活動自体を停止させることが可能になり,無登録営業に対しては罰則を規定することによって,無登録業者にる販売預託取引の無効を規定したうえで,組織犯罪処罰法上の被害回復制度の適用対象とすることにより,被害者の被害回復に繋げることもできる。したがって,届出制ではなく登録制を提言する。
3 意見の趣旨2(消費者庁の破産申立権限)について
販売預託商法の契約者は,利益配当が続いているうちは取引実態に疑問をもって解約等の行動をとることが期待できないのが実情である。ジャパンライフ事件に見られるように,現物の裏付けを欠く破たん必至の商法であることが4回にわたる行政処分により社会的には明白であったにも関わらず,同社が倒産に至るまでは被害者弁護団による110番を実施してもほとんど申出はなく,債権者破産が申し立てられるまで事業が継続した例もある。したがって,現物まがい商法の被害を実効的に食い止め被害回復に結びつけるためには,消費者庁において現物の裏付けを欠く破たん必至の事業実態を把握したときに,行政庁による破産申立を行う権限が必要不可欠である。
消費者庁による破産申立権限の付与については,消費者庁が2013(平成25)年6月に取りまとめた「消費者の財産被害に係る行政手法研究会報告書」において,消費者庁に破産申立権を付与する場合を想定した申立の対象事案・要件,調査権限・調査体制,消費者救済目的に係る実効性,予納金の負担,本来の破産手続の目的との関係など,既に具体的な検討が行われたにも関わらず,その後6年以上にわたり議論が進んでいない状況である。
消費者庁は,販売預託商法に関する法制度の在り方を議論するに当たっては,行政庁による破産申立権の付与についても議論を再開し,早期の導入を検討すべきである。なお,適用対象事案を販売預託商法に絞り,個別に導入を検討することも考慮すべきである。
4 意見の趣旨3(被害回復のための立法措置)について
委員会意見は,悪質な類型の「販売預託商法」に係る事業者の犯罪収益を没収し,その上で,被害者の被害回復に充てる仕組みの導入を提言しており,その趣旨に全面的に賛成する。委員会意見はその具体的な方途については明言していないが,現物まがい取引及び元本保証型取引の禁止規定の罰則を強化し,組織犯罪処罰法上の犯罪被害財産の被害回復給付金支給制度(犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律)の適用対象とすることが念頭に置かれているものと思われる。
また,現物まがい取引及び元本保証型取引の禁止違反のみならず,登録制を導入した上で無登録営業の罰則を強化し,両者を組織犯罪処罰法の適用対象(組織犯罪処罰法第2条第2項第1号イ,同法13条2項)とすることにより,被害回復給付金支給制度の適用対象とすることが考えられる。無登録営業は形式犯であっても消費者の判断を歪める現物まがい商法を展開する可能性が高い点で社会的にみて違法性が高い業態であり,早期の被害抑止及び被害回復の実効性が期待されるところである。
以上のとおり,国は,販売預託商法を規制する新法の制定ないし預託法の改正に当たっては,禁止行為(現物まがい商法の禁止,元本保証の禁止)及び無登録営業につき,組織犯罪処罰法及び害回復給付金支給制度の適用対象とするよう併せて立法措置を講ずるべきである。
以 上
[1] 「物品・権利(以下「物品等」という。)を販売すると同時に,当該物品等を預かり,自ら運用する,又は第三者(ユーザー)に貸し出す等の事業を行うなどして,配当等により消費者に利益を還元したり,契約期間の満了時に物品等を一定の価格で買い取る取引」(委員会建議1頁)
[2] 委員会意見は,①物品等が存在しない場合,②物品等の数量が預託されているはずの数量よりも著しく少ない場合,③物品等の販売価格が実際の価値に比べて著しく高額であるなど,形式的に物品等を介在させている場合を挙げている(委員会意見1頁)。
[3] 具体例として,ジャパンライフ事件における「長期契約」があげられる。