2020.01.08

生活保護法に基づく保護費の支給漏れ等を是正し、実効的な再発防止策を講ずることを求める会長声明

  1. 生活保護法に基づく保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基として、不足分を補う程度において行うと定められている(生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第8条)。しかし、埼玉県下において、保護の実施機関(生活保護法第19条第4項)がその基準に基づいて保護費を加算すべき事項の認定を誤り(いわゆる認定漏れ)、または、変更を怠り(いわゆる変更漏れ)、その結果として被保護者が本来受給できる生活保護費を受給できなかった(いわゆる支給漏れ)という事態が確認されている(以下、認定漏れ、変更漏れ、支給漏れを合わせて、「認定漏れ等」という。)。
    たとえば、埼玉県新座市では、令和元(2019)年6月19日付新座市記者発表によれば、生活保護費に加算される障害者加算について、16世帯で、古くは平成14年分から障害者加算事由の認定漏れ等があり、それによる保護費の未支給総額は約2135万円にのぼる。
    このほか、埼玉県朝霞市においても、令和元(2019)年8月5日付朝霞市記者発表によれば、新座市の公表を受けて障害者加算等各種加算の認定状況等の調査が実施され、その結果、5世帯について障害者加算の認定漏れ及び変更漏れがあり、総額約57万円の支給漏れがあったことが明らかとなった。
    両市の報告では、認定漏れ等の原因としては、被保護世帯の個別台帳の所定欄への記載やシステムへの必要事項の入力が徹底されておらず、その後の確認作業も適切に行われていなかったこと等が挙げられている。
    両市に限っても、相当数の認定漏れ等が確認され、その原因の一部が前記のような事務処理上の人為的な過誤であるとすれば、これらの認定漏れ等の例は氷山の一角にすぎず、全国的に、相当多数の認定漏れ等が存在し、是正されないまま、現に、続いている可能性がある。
    そして、その背景には、被保護者が、自身に認定されている加算事由及び認定されていない加算事由、並びに、その認定によって加算され、または加算されうる保護費を認識しづらいという事情がある。現在、保護の実施機関の多くは、被保護者に対し、生活保護費の根拠となるべき金額を、「生活保護決定(変更)通知書」の交付によって通知している。しかし、その通知書の記載内容は、変更があった事項について、変更の根拠となる事由及び変更後の金額が端的に記載されているだけであり、被保護者に対し、認定されていない加算事由の存在や認定された場合に加算されるべき金額等をわかりやすく情報提供する内容となっていない。そのため、被保護者は自ら加算されるべき事由があるのに認定されていないことを確認できず、そのことが、認定漏れ等が長年発見・是正されないまま続いてきた大きな要因の一つになっていると言わざるを得ない。
  2. 生活保護制度は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を定めた憲法25条の生存権の保障を具体化したものであり、障害者加算は健康で文化的な最低限度の生活の需要を満たすための制度である(生活保護法8条)。このことから、障害者加算を始めとする加算事由の認定漏れまたは変更漏れによって生活保護費の支給漏れがある状態は、被保護者の「健康で文化的な最低限度の生活」が侵害されている違憲、違法な状態であって、決して生じさせてはならない。
  3. そこで、当会は、保護の実施機関に対し、以下の各項のとおり求める。
    (1)まず、早急に、被保護者の実情を確認し、保護台帳及びシステムの基本情報と突合することによって、障害者加算を始めとする加算の認定要件の認定漏れまたは変更漏れがないかを確認し、万が一、認定漏れや変更漏れが確認されたときには、そのような過誤が生じた原因を確認の上、チェック体制の充実や後述する生活保護決定(開始または変更)通知書の体裁の変更その他の方法による、具体的な再発防止策を講じられたい。
    (2) 併せて、支給漏れが生じた場合、被保護者は保護の実施機関の過誤により健康で文化的な最低限度以下の生活を強いられたといえ、その状態を放置しておくのは適切ではない。そのため、支給漏れが生じた場合には、事後的にでもあるべき状態に戻すべく、その不足した生活保護費に、法定の遅延損害金を付して、被保護者に給付されたい。
    (3) さらに、被保護者自身が認定漏れ等が生じていないかを確認するためには、認定されている加算事由の有無や加算されるべき金額、実際に加算されている保護費の額をチェックするという方法が簡便かつ確実である。
    そこで、保護の開始または変更の際の「生活保護決定通知書」の体裁の変更または補足説明書の添付その他の適切な方法により、生活保護費支給の際に、被保護者に対して、法令の定める加算事由、及び、加算された場合に支給される加算額、当該被保護者が認定されている加算事由、それにより実際に加算されている額を通知されたい。

2020年1月8日
埼玉弁護士会会長  吉澤 俊一

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