2019.09.11

死刑執行に抗議する会長声明

  1. 2019年8月2日、山下貴司法務大臣の命により、死刑確定者2名に対する刑の執行がなされた。
    2018月12月の死刑執行に続く執行であり、令和改元後初めての死刑執行となる。
  2. 死刑は、国家が人命を奪い、これにより人が享有するすべての権利・自由を剥奪する刑罰である。それ故に、死刑は究極の人権侵害制度であるといわざるをえない。しかも、誤判や冤罪の危険が常につきまとう現在の刑事司法制度の下では、死刑は取り返しのつかない結果を招来するものであり、このことは、死刑確定後の再審により無罪が確定した過去4件の事件(免田、財田川、松山、島田事件)からも明らかである。
    このように、死刑が究極の人権侵害を内包する刑罰である以上、基本的人権の尊重という憲法の最高価値を実現する観点からは、死刑制度の廃止を志向すべきであり、そのために全社会的な議論を尽くすことが求められる。
  3. 世界各国の状況をみると、法律上または事実上、死刑を廃止している国は、2018年12月末現在、合計142カ国に上り、世界の国々の3分の2以上を占める。死刑制度を残し、実際に死刑を執行している国は世界的にも少数といえる。日本政府は、これまで国連の自由権規約委員会(1993年、1998年、2008年、2014年)、拷問禁止委員会(2007年、2013年)及び人権理事会(2008年、2012年)から、死刑執行を停止し、死刑廃止を前向きに検討するべきであるとする勧告を受けてきた。さらに、2018年7月になされた各死刑執行に対しては、駐日欧州連合(EU)代表部、EU加盟国の駐日大使、アイスランド、ノルウェー、スイスの駐日大使が共同声明を出し、日本政府に対し、死刑を廃止することを視野に入れた死刑の執行停止の導入を呼びかけた。このように死刑廃止は世界的な潮流といえるが、今回の死刑執行は、国際機関からの度重なる勧告等を軽視するものといわざるをえない。
  4. 日本弁護士連合会は、2016年10月7日、第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(以下「2016年宣言」という。)を採択し、日本政府に対し、日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すことなどを求めた。さらに、2016年宣言採択の後も、これを実現するため死刑廃止等実現本部を設置した。当会も、日弁連の活動に呼応し、死刑廃止検討プロジェクトチームを設置し、2016年宣言後は、死刑廃止実現プロジェクトチームを設置するとともに、市民集会を開催するなどして死刑制度についての全社会的議論を呼びかけた。
  5. このような状況下においてなされた今回の死刑執行は、世界的な潮流に逆行するものといわざるをえず、また、人命を軽視する日本政府の姿勢を端的に示すものである。さらに、日本政府は、再三の要求にもかかわらず、死刑に関する情報を十分に公開せず、全社会的議論の土壌すら与えようともしない。このような日本政府の態度は、基本的人権の尊重という憲法の最高価値を蔑ろにするだけでなく、国際協調主義の精神・趣旨(憲法98条2項)に悖るものであり、厳しく批判されなければならない。
  6. 当会は、昨年7月6日、同月26日、及び同年12月27日の死刑執行後、重ねて日本政府に対して、究極の人権侵害制度である死刑の廃止に向けた全社会的議論を主導すること、その間においてはすべての死刑執行を停止することを強く求めてきた。当会に限らず各地の弁護士会からも抗議の意見が出される中、わずか数ヶ月後のうちになされた死刑執行であり、改めて強く抗議する。
    また、今回執行された者のうち一人は、再審請求中の執行とのことである。確定判決であっても誤判の可能性が絶対にないという保障はなく、殊に死刑が生命に対する不可逆的な侵害であることを踏まえれば、本人による再審請求の機会は十分に保障されなければならならない。今回の死刑執行により、事後的な救済の道を奪う結果となった。それ故、適正手続(憲法31条)の観点からも大いに問題がある。
  7. 以上から、当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、改めて日本政府に対し、死刑廃止の実現に向けた全社会的議論を行うこと、及び、これが尽くされるまでの間、全ての死刑執行を停止することを強く求める。

2019年9月11日
埼玉弁護士会会長  吉澤 俊一

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