2019.07.17

介護老人保健施設入所または通所を希望する者に対する不適切な取り扱いを速やかに是正させ、これを適切に監督することを求める要望書

令和元年7月17日

厚生労働省 御中
埼玉県   御中
さいたま市 御中

埼玉弁護士会会長  吉澤 俊一

第1 要望の趣旨

介護老人保健施設を監督する立場にある国及び自治体は、その監督する介護保険施設運営事業者が、身元保証人がいない場合や、成年後見人が連帯保証をしない場合に入所または通所を認めないといった不適切な運用を行っていないかどうかについて確認し、上記運用が認められる場合には速やかにこれを是正させる等、適切な監督を行うことを求める。

第2 要望の理由

  1. 介護老人保健施設においては、介護保険法上、身元保証人を求める規定はない。
    また、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)第5条の2、及び各施設の基準省令においては、正当な理由なくサービスの提供を拒否することはできないこととされており、入所または通所を希望する者に身元保証人等がいないことは、サービス提供を拒否する正当な理由には該当しない。
    全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議(平成28年3月7日)で配布された資料でも、上記解釈を前提とした上で、「介護保険施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)において、身元保証人等がいないと入院・入所を認めない施設が一部に存在するとの指摘がある。(中略)介護保険施設に対する指導・監督権限を持つ都道府県等におかれては、管内の介護保険施設が、身元保証人等がいないことのみを理由に入所を拒むことや退所を求めるといった不適切な取扱を行うことのないよう、適切に指導・監督を行っていただきたい。」として注意喚起を行っている。
  2. しかしながら、さいたま市内にある、独立行政法人地域医療機能推進機構が運営する介護老人保健施設において、当会所属の弁護士が第三者成年後見人となっている被後見人について、短期入所療養介護利用契約・通所リハビリテーション利用契約を締結するにあたり、同成年後見人に代理人として署名することを求められたが、その内容は、同成年後見人が連帯して損害賠償責任を負う旨の条項が不動文字として記載されていた。これについて同成年後見人が、上記記載について変更を求めたところ、変更する法律上の根拠がないこと等を理由に同施設から通所を拒絶されたという事案が報告されている。
  3. そもそも、介護分野について公的保険制度が採用されている趣旨は、誰しもが抱える要介護状態のリスクに対し、これを国民全体で支える点にある。こうした介護保険制度においてサービス提供者たる指定を受けた施設・事業者等において、介護の必要性と直接関係のない身元保証人の有無によってサービスを受けられるか否かが左右されることは、介護保険の制度趣旨に反するものである。
    そして、前1項で述べたとおり、介護老人保健施設においては、介護保険法上、身元保証人等を求める規定はなく、これがいないことはサービス提供を拒否する正当な理由にも該当しないのであり、身元保証人がいないことを理由に契約を拒否すること自体が、介護保険法及び介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準に違反するものであることは明らかである。
  4. 以上に加え、成年後見人においては、被後見人との関係で利益相反するおそれのある行為を行うことが認められないのであり、本件のように本人が利用する施設との間の契約に関して債務を負担するおそれのある保証契約についても契約締結自体が成年後見人としての行為として相当ではないのであって、債務を負担するおそれのある連帯保証を求めること自体が、成年後見制度の円滑な運用を阻害するものである。
  5. したがって、独立行政法人地域医療機能推進機構を所管する厚生労働省、上記介護老人保健施設を監督する立場であるさいたま市、さらにはさいたま市以外の埼玉県内の介護保険施設を監督する立場にある埼玉県においては、独立行政法人地域医療機能推進機構その他の介護老人保健施設運営事業者に対し、身元保証人がいない場合や、成年後見人に対して連帯保証を求め、これに応じない場合に入所または通所を拒絶する運用を行っていないかどうかについて確認し、上記運用が認められる場合には速やかにこれを是正させる等、適切な監督を行うことを求める。

以 上

戻る