1997.10.13

死刑執行に関する会長声明

本年八月一日、東京拘置所において二名、札幌拘置所において二名の合計四名に対し、死刑の執行が行われた。これにより三年四か月にわたった事実上の死刑執行の停止状態が破られ死刑執行が再開した。一九九三年三月以来、既に二五名もの多数の死刑執行が行われたことになる。
死刑問題については、国連において死刑廃止条約が採択され、事実上の廃止を含む死刑廃止国が存置国の数を上回るなど、諸外国において死刑制度の廃止が世界の潮流になる中で、わが国おいても、死刑制度の是非について、様々な論議が高まっている。当弁護士会の所属する関東弁護士会連合会は、平成七年九月二八日開催した第四一回定期大会において、死刑問題に関する決議を行い、わが国を真の文化国家として建設するうえで、あるべき刑罰制度を考究し、その構築に向けて努力することが不可欠であり、今こそ死刑問題に関する全国民的論議を展開すべきであって、そうした論議をより実りものにするため、当面死刑の執行を差し控えるよう、法務大臣に強く要望してきた。
また、死刑に直面する者の権利保護については「市民的及び政治的権利に関する国際条約」(一九六六年第二一回国連総会採択、いわゆる国際人権(自由権)規約)、「死刑に直面する者の保護の保障に関する決議」(一九八四年/五〇)「死刑に直面している者の権利の保護の保障の履行に関する決議」(国連総会決議一九八九年/六四)において、手続のあらゆる段階における防御権、弁護を受ける権利の特別の保障、恩赦制度の確立、必要的上訴制度、高齢者、精神的障害者等に対する執行制限等、死刑に直面する者に対する特別の保護と権利の保障を求めている。
しかし、わが国の死刑に直面する者に対する権利保障については、被疑者段階における国選弁護人制度が設けられていないことなど、防御権、弁護権の保障が不十分であること、死刑確定後の面会、通信の外部交通が著しく制限されていること、自動的上訴制度が設けられていないこと、死刑が執行されない最高年齢が定められていないこと、精神障害等に対する死刑が排除されていないこと、再審申立、恩赦申立に執行を停止する効力が認められていないこと等において、国際人権(自由権)規約及び上記国連決議等に違反し、制度上、運用上不十分な状態にある。また、前記一九八九年国連総会決議では、加盟国に対して「死刑に直面している者の権利保護の保障を規定する立法を再検討するよう要請」され、また「死刑の適用に関する情報を公表するよう促す」とされているにもかかわらず、国連加盟国たる日本政府は、死刑に直面する者の権利保障に関しての立法の再検討に着手せず、また死刑の適用に関する情報の公開もしないまま、死刑執行を継続している状態にある。
その結果、一九九三年一一月三日には、国際人権(自由権)規約委員会から死刑の廃止への措置と死刑確定者などの被拘禁者の処遇改善に関して勧告も受け、また、一九九七年四月三日国連人権委員会の「死刑廃止に関する決議において、わが国を含む死刑存置国は、以上の死刑に直面する者に対する権利保障を遵守するとともに、死刑を完全に廃止するという見通しのもとに、死刑執行を停止するよう呼びかけられている。
当弁護士会は、法務大臣に対し、死刑制度をめぐる国際的、国内的潮流を踏まえて、死刑問題に関する国民的論議を尽くすこと、および死刑に直面する者に対する国際人権(自由権)規約及び国連決議に照らして、死刑に直面する者の権利保障に関する立法の制定、整備をはかり、死刑に関する情報の公開をはかるなど、死刑に直面する者の権利保障のための対策をすみやかに講じることが、何より重要であり、それまでの間、死刑の執行は差し控えるよう強く要望するものである。
以上のとおり要望する。

1997(平成9)年10月13日
埼玉弁護士会会長  北條 神一郎

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