1999.08.09

安田弁護士の早期保釈を求める会長声明

第二東京弁護士会会員である安田好弘弁護士は、強制執行妨害罪の容疑で昨年一二月六日逮捕、同月二五日起訴されたが、東京高等裁判所第四刑事部は、本年七月三〇日、同事件の公判審理を担当する東京地方裁判所第一六刑事部が同月二九日宣告した保釈許可決定を取り 消し、弁護人の保釈請求を却下した。これに先立ち、東京高等裁判所第一刑事部も本年六月一一日及び七月六日の二度にわたって、同様に東京地方裁判所第一六刑事部の宣告した保釈許可決定を覆して、安田弁護士の釈放を阻止している。これにより、安田弁護士の身体拘束期間は、起訴事実である強制執行妨害罪の法定刑の長期が懲役二年であるにもかかわらず、既に八か月以上に及ぶ異常な事態となっている。
日本国憲法三四条は「...何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、...」と規定し、身体の拘束が例外的措置であることを明らかにしている。また、わが国が批准している国際人権(自由権)規約一四条二項は「刑事上の罪に問われている全ての者は、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定する」と規定し、九条三項は「...裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず、...」と規定して、身体不拘束の原則を宣言している。そして、昨年一一月、国際人権(自由権)規約に基づいて設置された規約人権委員会は、わが国の定期報告書に対し最終見解を公表したが、その二二項で、わが国に対し、起訴前勾留制度の緊急改革を強く勧告した。この勧告においては、起訴前最大二三日間の勾留期間中に、わが国では保釈制度が存在しないことすら問題にされているのである。さらに、規約人権委員会の最終見解三二項は、規約で保障された人権について、裁判官、検察官等に対する人権教育を実施するよう強く勧告している。また、国際的人権擁護団体アムネスティ・インターナショナルは、本年三月、高名な人権活動家である安田弁護士に対する身体拘束は恣意的な拘束であると指摘し、わが国政府に拘禁手続を国際人権基準に則ったものにするよう要請している。近似の裁判所による保釈実務は、先に述べた憲法と国際人権法の理念から乖離し、無実を争う被告人に対しては、検察側請求の証拠調べが終了するまで「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法八九条四号)が払拭されないとして、保釈を拒否し続けるという運用が定着している。そのため、無実を争う被告人は、身体の拘束という苦痛と不利益の中で裁判を受けなければならず、これに打ち勝たない限り、自己の主張を貫くことは困難な状況至っている。この苦痛と不利益に耐えきれない者は、自白に追い込まれるのである。まさに、裁判所が捜査機関と一体となって自白強要に手を貸しているも同然であり、人質司法と評される所以である。こうした実務が虚偽自白を誘発し、幾多の冤罪を生み出してきたのである。裁判所による安田弁護士に対する保釈の拒否は、裁判所の保釈実務が憲法と国際人権法の理念に反していることを如実に示した事例と断ぜざるを得ない。
埼玉弁護士会は、一九九二(平成四)年一月より当番弁護士制度を発足させて以来、刑事司法の改革に取り組んできた。また、一九九六(平成八)年五月には「刑事弁護活動に関する総会決議」を採択し、「憲法及び国際人規約等いわゆる国際人権法の保障する権利を刑事手続において実現するため、個々の事件処理を通して懸命な努力を継続する」ことを誓った。このような当会にとって、安田弁護士に対する保釈の拒否は黙過できない問題である。
ここに、当会は、関係機関において、憲法と国際人権法の理念に従った適切な対応が取られ、安田弁護士が速やかに釈放されることを強く要望する。

以上

1999年(平成11年)8月9日
埼玉弁護士会会長  村井 勝美

戻る