2003.04.30

「有事法制3法案」に反対する声明

  1. 当会は、昨年5月の定時総会において、「有事法制3法案」(「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」、「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」)に反対する決議をした。その理由は、現在国会に上程されている有事関連3法案は、憲法の基本原理である基本的人権の尊重、平和主義、国会の優位性、地方自治の本旨などに抵触するということにある。国政が憲法に従ってなされるべきことは、立憲民主主義国家における大前提である。
  2. ところで、政府と与党は、今通常国会において、「有事法制3法案」の早期制定を企図している。昨年の通常国会に上程された法案に一部修正は加えられているものの、上記のような憲法原則への抵触は、何ら改善されていない。
    また、「有事法制」の重要な構成部分となる「国民保護法制」や「米軍協力法制」についても、その全容は示されていない。この国の進路を大きく転換することになる法制について、政府と与党はその説明責任を果たしていないといわざるを得ない。
  3. また、当会は、昨年11月、アメリカなどによるイラクへの武力攻撃は、国際法上も人道上も許されず、日本政府がイラクへの武力攻撃を支持することは、憲法の平和主義に照らして許されないとの会長声明を発表した。イラク攻撃の現実は、多くのイラク市民を殺傷し、市民生活の基盤を破壊しただけでなく、周辺国のみならず、国連を中心とする国際社会の秩序形成にも暗い影を投げかけている。国際法が到達している諸原則を軽視し、武力を用いて国際紛争を解決しようとすることが、かえって甚大な惨禍と困難をもたらすことを改めて示す結果となった。
  4. 政府と与党は、日本への外国からの武力攻撃は具体的には想定できないとしながら、「有事法制」の制定を急いでいる。今回のイラク戦争は、日米同盟の名のもとに日本がアメリカの行う戦争に否応なく協力させられることになり、「有事法制」の制定はより一層危険な状況を生むおそれのあることを端的に示している。国際協調主義をとり武力による国際紛争の解決を禁止する日本国憲法の下で、基本的人権に重大な影響があり、且つ、国会中心主義や地方自治制度など統治機構にも大きな変貌を迫ることになる「有事法制」を急ぐことは、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きる」(憲法前文)ことに繋がる危険性があることは否定できない。
  5. 当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の役割に鑑み、立憲主義を軽視し、武力による国際紛争解決に道を開くことになる「有事法制3法案」の制定に強く反対し、同法案を直ちに廃案にするよう重ねて求めるものである。

以上

2003年(平成15年)4月30日
埼玉弁護士会会長  難波 幸一

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