2005.06.21

憲法改正国民投票法「案」に反対する会長声明

  1. 自由民主党と公明党は憲法改正国民投票法について、憲法調査推進議員連盟が作成した「憲法改正国民投票法案」(以下、「法案」という)をもとに「法案骨子」(以下、「骨子」という)をとりまとめました。今後民主党との協議を進め、協議が整えば政府は法案として提出する予定であるといわれています。
    しかし、「法案」とそれをうけての「骨子」には現行憲法の基本的原理である国民主権の観点から見て看過しえない問題点が存在していると言わなければなりません。
  2. 憲法は国家体制の基本秩序を定める最高法規であるとともに、国家権力を制限し国民の権利・自由を保障することを本質とすることから、日本国憲法第96条は厳格な改正手続きを定めていますが、同時に憲法改正手続きは国民主権の具体化なので、主権を有する国民の意思が適正に反映されなければならないことは当然です。従って、憲法改正手続きにおいては、国民に対して改憲の是非の情報が十分に提供され、広範な国民的議論がなされることが不可欠なのであって、そのために表現の自由の現れとしての国民投票運動の自由が最大限に保障されなければなりません。
    さらに、憲法改正問題を論議する際には「憲法の改正には限界があり、いかなる手続きをとったとしても改正できない基本原理が存在する」という見解が有力であることを十分に考慮しなければなりません。
  3. 「法案」・「骨子」は、第一に憲法改正手続きに国民の意思を反映させない重大な欠陥を持っています。即ち、憲法の改正点が複数にわたった場合に各項目ごとに改正案を提案するのか、全体を不可分のものとして提案するのかについて明確にすることを避けて、後者の方法によって改正案を提案することに道を開いています。しかし、全体を不可分のものとして改正案が提案される場合には、例えば「環境権の明文化には賛成で、9条の改正には反対」という国民は、全体に賛成するのか反対するのか、あるいは棄権するのか不合理な選択を強いられることになり、いずれにせよその意思を投票結果に反映させることができません。
    第二に「法案」・「骨子」は、国民投票運動について広範な禁止制限規定を定め、不明確な構成要件によって刑罰を科すものになっています。公務員の運動の制限、教育者の運動の制限、外国人についての運動の全面禁止、予想投票公表禁止、新聞・雑誌・放送事業者などのメデイアに対する過剰な報道制限等がそれであり、これらは国民投票運動について著しい萎縮効果をもたらすことは明らかです。
    第三に「法案」・「骨子」は憲法改正の国会の発議から国民投票までの期間を「30日ないし60日以後90日以内の内閣が定める日」としていますが、憲法改正を国民的に議論する期間としてはあまりにも短かすぎ、議論が不十分な状況下における投票を余儀なくされることは明らかです。
    その他にも、改正の承認に必要な国民の「過半数の賛成」を有効投票数の過半数として、憲法改正の承認にとり、もっとも緩やかな基準を採用し、また国民投票が成立するための投票率の規定がないことも問題点です。
  4. 衆議院と参議院の憲法調査会が最終報告書を提出し、政権与党の自由民主党が憲法改正要綱を発表している状況下において「法案」「骨子」が発表されている事は、これらが改正論議と深い関係にあることを示唆すると同時に、上記に指摘した多くの問題点は立法技術上のものではないのではないか、「法案」・「骨子」が国民投票法を真摯に国民の意思を問うためのものではなく、憲法改正を実現するための方途として位置づけているのではないかとの疑問さえ払拭できないのです。

以上の次第であり、上記のような重大な欠陥を有することになる「法案」「骨子」をもとにした憲法改正国民投票法案の国会上程に強く反対します。

2005年6月21日
埼玉弁護士会 会長 田中 重仁

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