2005.07.15

共謀罪新設に反対する会長声明

  1. 「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下「国際犯罪防止条約」という。)の2003年5月の批准に合わせて、2003年3月、共謀罪の新設を含む法案が国会に上程されたが廃案となった。その後2004年2月20日に前記廃案となった法案に情報処理の高度化に対処するための改正を付加した「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」(以下「法案」という。)が国会に提出され,以後継続審議となり,この6月24日に衆議院法務委員会で審議が開始された。
  2. 国際犯罪防止条約は、「性質上国際的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与する」犯罪を防止するために(国際犯罪防止条約第1条、第3条)、重大犯罪の共謀や、組織的な犯罪集団への参加を犯罪化することを求めたものである。
    具体的には、「金銭的利益その他の物質的な利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを1又は2以上の者と合意すること」を共謀罪とするとしている。
  3. 法案は、この国際犯罪防止条約により犯罪化することが求められている重大な犯罪に対する共謀罪の新設等、国内法の整備を目的としている。この点につき,法案を検討した法制審議会における法務省側の説明では,国内において共謀罪を新設する立法事実はなく,法案はこの条約締結のために必要な犯罪化を図っていくためのものと説明している。
    ところが、法案では、共謀罪を、長期4年以上の懲役又は禁固の刑が定められている罪(条約でいう重大犯罪)について、「団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した」場合としている(「改正」組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第6条の2)。
    これでは、そもそも国際犯罪防止条約の適用範囲である「性質上国際的なもの」「組織的な犯罪集団の関与」という条件が欠落している上、「金銭・物質的な利益を目的」とすることさえ要件とされておらず、単に「団体性」「組織性」さえ認められれば、共謀罪が成立することとなる。
    そのため、法案では、合法的な団体の構成員間で、純粋に国内的な犯罪に関する合意(黙示を含む)を行った場合であっても、共謀罪が成立することとなる。法案の目的は条約批准のための国内法整備であるが,法案がこの範囲を逸脱していることは明らかである。
  4. また、国際犯罪防止条約は、共謀罪の犯罪化にあたり、「国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意を推進するための行為を伴(う)」ことという要件を付加することも可能であるとしている(国際犯罪防止条約第5条1項(a)(i))。
    ところが、法案では、この「合意推進の行為」という要件を付加することなく、実行の着手はもちろん予備行為もない、単なる合意の段階でも共謀罪が成立するとしている。これによって、犯罪構成要件の概念が極めて広範かつ曖昧なものとなり、処罰時期も大幅に前倒しされることとなる。これでは、刑法の有する人権保障機能を破壊しかねない。
    しかも、共謀のみで処罰するのであるから、捜査の対象としては、会話やメールのやりとり等が重要な地位を占め,その結果、盗聴法の適用範囲の拡大など、国民の私生活に対する捜査機関による不当な監視・管理の強化に繋がることになり,また,個人の内心の自由を侵害することにもなる。
  5. 以上の通り、法案による共謀罪の新設は、国際犯罪防止条約が要求する範囲を逸脱しているだけでなく、「共謀」という構成要件の明確性を欠いたものを処罰しようとするものでり、軽いほうの罪の共謀罪でも2年以下の懲役又は禁錮の刑に処せられることとなり,基本的人権の保障の観点から重大な問題がある。国際犯罪防止条約批准に伴って国内法の整備の必要があるとしても、法案による共謀罪の新設は到底許容できるものではない。
    よって、本法案を廃案とすべきである 。

2005年(平成17年)7月15日
埼玉弁護士会会長 田中重仁

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