2006.05.20

出資法の上限金利の引き下げ等を求める決

2006年(平成18年)5月20日 埼玉弁護士会

決議の趣旨

  1. 出資法5条の上限金利を、利息制限法1条の制限金利まで引き下げるべきである。
  2. 貸金業規制法43条(みなし弁済規定)を廃止するべきである。
  3. 出資法における日賦貸金業者及び電話担保金融に対する特例金利を廃止すべきである。

決議の理由

第1 決議の趣旨第1項について

  1. いわゆる商工ローンが社会問題となったことを契機として、1999年(平成11年)12月の臨時国会において、出資法5条2項の上限金利が年40.004%から年29.2%に引き下げられた。この際、施行後3年経過した時点で、上限金利について必要な見直しを加えるとの附帯決議がなされた。
    ところが、施行後3年を経過した2003年(平成15年)の通常国会において、いわゆるヤミ金対策法が成立したこともあり、上限金利の見直しの問題は先延ばしとなり、ヤミ金対策法施行後3年を目途として、検討を加え必要な見直しをするとの附帯決議がなされた。ヤミ金対策法は、一部の条文については2003年(平成15年)9月1日に、その余の全部の条文については2004年(平成16年)1月1日に施行されたので、2006年(平成18年)9月から2007年(平成19年)1月にかけてが見直しの時期に当たり、本年中には、上限金利見直しに関する法案が国会に上程される見通しとなっている。
  2. このような中、消費者金融業界は、上限金利を引き下げると信用リスクの高い借り手の資金需要に応えることができなくなり、その結果、合法的な貸し手から融資を受けることができなくなった者がヤミ金融に向かうことになったとして、かえって上限金利の引き上げを主張している。
    しかし、ヤミ金融から借り入れる者は、破産経験者やすでに延滞に陥っている者であり、出資法の上限金利引き下げ前であっても、中小貸金業者ですら貸付を断っていたであろう者が多い。つまり、ヤミ金融から借り入れる者は、すでに多重債務に陥っている者であり、ヤミ金融を撲滅するには、そもそも多重債務者の発生を抑止しなければならないのである。
    個人破産申立件数は2002年(平成14年)ないし2004年(平成16年)まで毎年20万人を超え、やや減少傾向が見られた昨年でも約18万人余を数え、過去5年間の累計は約100万人に昇り、潜在的な破産予備軍も150万ないし200万人といわれている。さらに、2004年(平成16年)の経済苦、生活苦による自殺者は約8000人にも達し、路上生活者に陥った原因の多くが多重債務であることも指摘されている。このように、多重債務者は増加の一途をたどっている。
    他方、金融庁業務報告書集計結果によれば、1995年(平成7年)3月末時点では、消費者金融業者を意味する消費者向け無担保金融業者の貸付残高は約5兆2000億円であったが、2002年(平成12年)3月末では、約9兆5000億円、2003年(平成15年)3月末では、約12兆円、2004年(平成16年)3月末では、約11兆7000億円である。このように消費者金融業者の貸付残高も年々増加の一途をたどっている。
    このような、個人破産申立件数と消費者金融業者の貸付残高の増加傾向をみれば、多重債務の主たる原因は、消費者金融業者の高金利及び過剰与信にあることは明らかである。
    また、ヤミ金融の多くは年利1000%をはるかに超える異常なまでの高金利で貸付を行い、脅迫的な方法で取立てを行っている。どのような金利規制制度を導入するにしても、このような暴利行為が許されないことは自明である。ヤミ金融は正当な取引活動ではなく、金融取引に藉口した恐喝であり、このような犯罪行為撲滅に必要なのは、ヤミ金融対策法等による取締であって、上限金利の引き上げではあり得ない。
  3. このように,多重債務を生む原因は高金利及び過剰与信にあるのであって、この高金利、過剰与信構造を打破することがヤミ金融撲滅にもつながるのである。
     したがって、出資法の上限金利は、少なくとも、利息制限法所定利率まで引き下げられるべきである。

第2 決議の趣旨第2項について

  1. 貸金業規制法43条は、一定の要件を満たす場合に利息制限法の制限利率を超える利息・遅延損害金の支払を有効な支払とみなしている。しかし、前述のとおり、出資法の上限金利は利息制限法所定の利率まで引き下げるべきであり、これが実現すれば同条は無意味な規定となる。
  2. また、同条は、消費者金融業者による高金利の貸付と暴力的取立てが社会的問題となったことを契機に、1973年(昭和48年)に貸金業規制2法が制定された際に、政治的妥協の産物として導入されたものである。同条の存在意義は、立法当初から疑問視されていたものであるが、少なくとも、今日においては、貸金業者が利息制限法制限金利を超える高利を徴収するための根拠としてしか機能しておらず、もはや存在意義は消滅したということができる。
  3. そもそも、貸金業規制法43条は、利息制限法に違反して無効となる利息を容認するものであり、利息制限法による利率制限の原則をゆがめるものであるが、最高裁判所は、2004年(平成16年)2月、2005年(平成17年)12月に続き、本年1月13日、19日、24日と、同条を厳格に解釈し、その適用を否定する判決を立て続けに下した。これら一連の判決によれば、同条の適用場面は極めて限定されることになる。つまり、最高裁は、利息制限法を超える高金利を容認しないことを示したということができる。
  4. したがって、このように、貸金業規制法43条はその存在自体が問題であるというべきであり、同条は速やかに廃止されるべきである。

第3 決議の趣旨第3項のついて

  1. 出資法の附則において、日賦貸金業者(日掛け金融)及び電話担保金融については、年54.75%まで認める旨の特例金利が定められている。
    しかしながら、日賦貸金業者については、返済方法の多様化が進んでいる現在において、集金による毎日の返済という形態にのみ特例を認める必要性はなく、むしろ、厳格な要件を守ることなく違法行為が横行し、悪質な取立の温床となっているという実情も存在する。
    また、電話担保金融においても、もはや電話加入権の財産的価値が失いつつある現在において、電話担保金融に特例を認める社会的・経済的な必要性は乏しいと言わざるを得ない。
  2. したがって、必要性が乏しく、むしろ、高金利の徴収の口実として悪用される弊害が大きい日賦貸金業者及び電話担保金融における特例金利の撤廃をすべきである。

以上

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