2007.01.31

「中国残留邦人帰国者」の尊厳回復を求める会長声明

本年1月30日,東京地方裁判所民事第28部は,「中国残留孤児国家賠償請求東京訴訟」について,請求を棄却する判決を言渡した。

  1. 本判決は,国の「早期帰国を実現する義務」及び「自立支援義務」のいずれも認めず,同種事案の「兵庫県訴訟」における2006年12月1日付神戸地裁判決とは異なり,国の損害賠償責任を認めなかったものである。
  2. しかしながら,本判決の原告らを含む「中国残留孤児」や「同婦人」と呼称される人々の人権問題について,日本弁護士連合会は,1984年の人権擁護大会において「中国残留邦人の帰還に関する決議」を採択し,その中で特に,国に対し特別の生活保障等の立法措置を速やかに講ずるよう求め,さらに,2004年3月には,日本政府の任務懈怠により,「中国残留邦人」は,1945年8月の敗戦前後の時期に中国東北部(旧「満州」)に取り残されたまま長年月にわたって中国に「残留」を余儀なくされ筆舌に尽くし難い苦難を被り続けた上,さらに,帰国が実現した後も今日にいたるまで尊厳に値する生活を保障されてこなかったとして,国に対し生活保護によらない特別の生活保障給付金制度の創設等を勧告しているのである。
  3. 本判決の原告らによる2002年12月の提訴に始まり,この間全国15の地方裁判所に総勢2000名を超える「中国残留孤児」による同種訴訟が提起されている。その中の「大阪訴訟」で請求自体は棄却した2005年7月の大阪地裁判決でも,「中国残留邦人」のうち帰国が実現した人々(以下「中国残留邦人帰国者」)の「多くが生活保護により生活をしている実態は看過することはできない」と指摘されていたのであり,また,上述の神戸地裁判決は,厚生労働大臣の「自立支援義務」の懈怠が違法であるとして国の損害賠償責任を認めたもので,これら判決が示すとおり,中国残留邦人帰国者の生活支援策の策定は国の喫緊の課題といわねばならない。
  4. しかるに,この間,政府及び国会は,中国残留邦人帰国者に対する抜本的且つ十分な支援策を何ら具体化することもなかった。本判決後,安部首相は,政府・与党で中国残留邦人帰国者の支援策の拡充を検討する考えを明らかにしたが,厚生労働省は,他の「戦争被害者」支援との均衡を欠くとして難色を示していると報道されている。 
  5. 当会は,政府及び国会に対し,中国残留邦人帰国者の人権問題は,「戦争被害」によるものというよりも,むしろ「戦後」の内閣及び国会の任務懈怠による被害であること,及び,帰国者の殆どが帰国時点で既に高齢となっており,その残された時間が必ずしも長くないことを真摯に受け止め,直ちに,本判決の原告らを含むすべての中国残留邦人帰国者の人間としての尊厳を回復するため,生活保護によらない特別の生活保障給付金制度等の生活支援に向けた施策策定等を直ちに実現するよう強く求める。

2007年(平成19年)1月31日
埼玉弁護士会会長  蔭山 好信

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