2007.05.09

特定商取引法改正に関する意見書

2007年(平成19年)5月9日
埼玉弁護士会 会長 小川 修

意見の趣旨

訪問販売・電話勧誘販売等における消費者被害が多発している実態に鑑み,次のような特定商取引法の改正を求める。

第1.悪質業者による脱法的な手口を許さない適用対象の整備

  1. 政令指定商品制を廃止すること。
  2. 展示会商法その他「訪問販売」の適用対象を整備拡充すること。
  3. 「販売業者」等の定義規定を見直し媒介業者関与型の取引を規制すること。

第2.被害防止と救済に実効性がある諸規定の抜本的強化

  1. 不招請勧誘を実効的に規制すること。
  2. 威迫困惑行為,判断力の低下に乗じた勧誘、販売目的を隠匿した勧誘などにつき、契約取消権を付与すること。
  3. 消費者団体訴訟制度の対象として特商法の違法行為を追加すること。
  4. 犯罪収益吐き出し制度の対象として特商法6条等を追加すること。

第3.その他の規定の整備

  1. 通信販売に解約返品権の法定化をすること。
  2. ネガティブオプションの書面交付義務化をすること。

意見の理由

はじめに

2004(平成16)年の特定商取引法(以下,「特商法」という。)改正は,当時から被害が増大していた悪質販売行為に対する行政規制の強化が中心課題とされた。その後,国と都道府県による行政処分件数は増加しているにもかかわらず,悪質商法被害はさらに増加している。
とりわけ判断能力が低下した高齢者を狙う次々販売被害,内職商法・絵画レンタル商法などの詐欺商法被害,展示会商法やアポイントメントセールスの脱法的手口などが増大している。
こうした状況は,現行特商法の規制内容自体が不十分であるため,悪質業者に対し現行法の違反行為による行政規制では十分に抑止できていないということの表れである。
これに対して,現在,産業構造審議会消費経済部会において,特商法の改正について,検討がなされているところである。
そこで,今般の特商法改正に当たっては,次のような視点で抜本的な法改正が必要である。

第1.悪質業者による脱法的な手口を許さない適用対象の整備

  1. 政令指定商品制を廃止すること
    訪問販売・電話勧誘販売・通信販売は,消費者が自発的に商品を選択する条件が制約されることから被害が多発するものであり,被害の後追い行政となる指定商品制は直ちに廃止すべきである。
    この点,諸外国においても政令指定制度の限定なく規制しており,仮に,規制が不適当なものが存するのであれば,外国法制を参考に適用除外指定制を採用すれば対応は可能である。
  2. 展示会商法その他「訪問販売」の適用対象を整備拡充
     現行特商法においては,「訪問販売」として,営業所等以外の場所における契約を対象とするほか,営業所等以外の場所において呼び止め営業所等に同行させての契約(キャッチセールス),商品販売勧誘目的を告げず営業所等への来訪を要請する(目的隠匿型呼出販売のアポイントメントセールス)等につき,規制しているものである。しかし,最近は,
    1. 直ちに営業所等に呼び込まずに,一旦外であった後数日をあけて,営業所等に呼び込む
    2. 営業所型の展示会に呼び込んで退去困難な状況で勧誘する方法(展示会商法)
    3. インターネットサイトで有利な取引であると告げて電話をかけさせ,消費者が掛けた電話で勧誘するなど、現行法の規制の適用外となる誘引・販売方法が多用されている実情がある。
      このような実情に適応するように,誘引方法の拡大,営業所等の定義の見直し等により,規制範囲を改正すべきである。
  3. 「販売業者」等の定義規定を見直し媒介業者関与型の取引を規制
    契約当事者と勧誘者(媒介者)等,複数の事業者が関与する販売形態における特商法の適用関係が不明確な状況にあり,勧誘者と契約当事者が別れる販売形態への対処が必要である。具体的には,?他社の商品販売につき訪問勧誘活動(売買の媒介・あっせん)のみを担当する業者を通じて販売活動を展開する業者への適用,?インターネット取引において,他社の通信販売を取り次ぐ広告や他社の商品を独自に販売するような広告が氾濫しているが,通信販売業者が誰か不明確なケースが多いこと(ドロップシッピングやアフィリエイト)など,販売業者等の適用関係が不明確な場合が見られる。そこで,定義の見直し等により,適用対象の整備拡充が必要である。

第2.被害防止と救済に実効性がある諸規定の抜本的強化

  1. 不招請勧誘を実効的に規制
    現在,無秩序な訪問・電話勧誘販売が横行している結果,不当な勧誘方法により契約を締結させられる被害が多発している。販売目的を隠匿して接近する手口や断る者に対する執拗な勧誘は,悪質販売行為の典型的な手口である。電話勧誘販売については,現行特商法17条において,断わる者への勧誘禁止が規定されているものの,その実効性が不十分である。
    とりわけ,高齢者等の弱者に対する悪質商法被害の防止には,断る者への勧誘禁止では実効性が不十分であることを踏まえると,営業活動の自由の名目で消費者の主体性を侵害することを規制するため,あらかじめ要請がない消費者に対する訪問・電話勧誘を禁止する「不招請勧誘の禁止」(オプトイン)を検討する必要がある。こうした規制は,既に,外国為替証拠金取引について金融商品取引法において規制されているところである。
    また,仮にオプトインの導入でないとしても,少なくとも,訪問販売においても,勧誘を断る消費者に対しては,勧誘の継続または再勧誘を禁止する「断わる者への勧誘禁止」(オプトアウト)を規定するともに,単に,消費者が明確に断った場合に勧誘を規制するのでは不十分であることから,?販売目的を告げたうえで勧誘をして良いかどうかの確認義務を加えること(商品取引所法参照),並びに?販売目的を告げない勧誘(法3条違反)や断る者への勧誘違反による契約には取消権を付与すべきである。
  2. 禁止行為の強化(威迫困惑行為,判断力の低下に乗じた勧誘,販売目的を隠匿した勧誘などにつき,契約取消権を付与)
    現行特商法6条においても,勧誘における禁止行為が規定されているものの,その実効性を確保するために,以下のとおり,要件の整備拡充とともに取消権を付与するなどの改正をすべきである。
    1. 威迫して困惑させる勧誘の禁止(特商法6条3項)は,消費者契約法4条の不退去・退去妨害の要件に比べ抽象的な条項のため使いにくいことから,威迫困惑行為の被害を類型化して具体的な例示規定を設けるとともに,罰則だけでなく,契約取消権を加えるべきである。例えば,勧誘を断る旨の意思を示したにもかかわらず勧誘の継続又は再勧誘を行うことなどである。
    2. 顧客の判断能力の低下に乗じた勧誘の禁止(特商法7条,省令7条)について,契約取消権を付与すべきである。
      判断能力が低下した高齢者等に対する不当な勧誘行為は,不実の告知や威迫困惑の勧誘内容が再現困難なため救済できない。そもそも,消費者の弱みに乗じた悪質勧誘行為であり,違法性の程度は不実の告知や威迫困惑に匹敵するものである。判断能力の低下については,成年後見制度により「後見」「保佐」「補助」の3段階の医学的判定が可能であり,要件の明確性を確保することができる。
    3. 販売目的を告げない勧誘(特商法3条)による契約についても,取消権を付与すべきである。販売目的の隠匿は,勧誘開始段階の誤認誘発行為であって,必ずしも契約内容の誤認に直結しない場合があるが,誤認類型の拡張要件として契約取消権を付与すべき必要性と相当性が認められる。
  3. 消費者団体訴訟制度の対象として特商法の違法行為を追加
    消費者契約法2004年改正により導入された団体訴権制度について,独占禁止法・景品表示法とともに,消費者被害が多発する特商法にも規定すべきである。
     この点,特商法は,もともと禁止行為に対して罰則や行政規制が入っていることから,立入調査により証拠収集が必要となるような悪質業者については第一次的には行政権限発動が必要であるとしても,特商法が定める表示規制違反や契約条件規制違反については,消費者団体による監視と差止の役割が期待できる。また,悪質勧誘行為についても,団体訴権の対象とすることにより,消費者団体による被害情報の収集や監視が強化され,悪質商法を抑制しうる実益がある。
  4. 犯罪収益吐き出し制度の対象として特商法6条等を追加
    組織犯罪処罰法の改正により導入された犯罪被害財産の被害者還付制度を大規模消費者被害が多発している特商法についても導入すべきである。
    特商法違反行為のうち書面交付義務等の形式犯は別としても,不実の告知・威迫困惑など特商法6条に該当する実質的な犯罪に限定することで,組犯法との整合性を図ることができる。さらに,将来的には,?行政庁が業務停止命令の過程で違法収益を把握した場合に,これを保全して違法収益還付手続きの開始を裁判所に申立る制度,?消費者団体訴訟制度に損害賠償請求を加える制度などを視野に入れて検討すべきである。

第3.その他の規定の整備

  1. 通信販売に解約返品権の法定化
    通信販売には,クーリング・オフ制度は規定されていないものの,販売業者の作成するパンフレット・広告等のみにおいて契約が締結されていることから,そのトラブルは少なくない。
    そこで,クーリング・オフをそのまま導入できないとしても,例えば,「通信販売により商品受領後○日以内で,当該商品を使用していない場合の解約権」など,通信販売に適合的な解約権を設けるべきである。
  2. ネガティブオプションの書面交付義務化
    販売業者が,消費者の注文を受けないで商品を送付することにより申込を行うネガティブオプションは,「商品送付後14日経過後は返還請求権を喪失する」(特商法59条)という民事規定で対処しているものの,相変わらず被害を繰り返している。これは,消費者の無知に乗じた悪質な取引方法であることから,消費者が自分の法的立場を理解し適切な対処ができるように,販売業者から消費者に対する申込書面の交付義務を定めるべきである。申込書面には,「注文に基づかない商品送付であり,購入義務はない」,「14日経過後は処分しても不利益を受けない」旨を記載事項とすべきである。
    そして,申込書面不交付・記載不備の業者に対し,行政処分権限を規定することにより,被害拡大防止の実効性を図ることができる。

以上

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