2007.05.18

録画・録音による取調べ全過程の可視化を全件につき 早急に実現することを強く求める総会決議

2007年(平成19年)5月19日
埼玉弁護士会

2007年(平成19年)2月23日、鹿児島地方裁判所は、2003年(平成15年)4月に実施された鹿児島県議会議員選挙に関し、公職選挙法違反として起訴されていた被告人全員に対して、無罪判決を言い渡した(以下「本判決」という)。
今回の無罪判決がなされた背景には、何が何でも自白を獲得したいという自白偏重の捜査機関の姿勢がある。
国連の国際人権(自由権)規約委員会は、1998年、日本の刑事手続の問題点として、多数の有罪判決が自白に基づくものであることに「深く懸念を有する」と指摘するとともに、「警察留置場すなわち代用監獄における容疑者への取調べが厳格に監視されるべき」として録画などによる取調べの記録を勧告していた。
本判決は、「本件においては、被告人らの自白の任意性及び信用性が激しく争われ、その関係で、取調べ状況に関する事実関係が重要な争点となり、これを解明するため、膨大な時間を費やして、多数の取調官の証人尋問と自白した6名の被告人質問を実施したにもかかわらず、取調べ状況を明らかにする明確かつ客観的な証拠がなく、その真偽を判明する証拠を欠いたことから、被告人らと取調官との言い分の対立点について、結局、『疑わしきは被告人の利益に』との観点から、被告人に有利に判断するほかなかった」と判示している。
これは、職業裁判官により、膨大な時間を費やして、多数の証人尋問や被告人質問が実施され、膨大な量の供述証拠が検討されても、取調べの状況を判断することが困難であることを実証するものであって、本判決は間接的にではあるが、裁判所自ら、現状のままでは、取調べ状況の適法性の判断を放棄せざるを得ないこと、取調べの状況を判断するためには、全取調べ過程を録画・録音することにより取調べを可視化することが必要不可欠であることを表明したものといえる。
近く裁判員制度が開始されるが、職業裁判官ですら取調べ状況を判断することが困難である以上、一般市民が参加する裁判員制度の下では、まして、この判断は到底不可能である。裁判員制度の下で、捜査段階における自白の信用性の判断を誤り、えん罪を生み出す危険を払拭するためにも、全取調べ過程を録画・録音することにより取調べを可視化する必要がある。
そこで、当会は、録画・録音することによる取調べの全過程の可視化を、立件された刑事事件全件において早急に実現することを強く求めるものである。

以上

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