2007.12.03

安易かつ拙速な生活保護基準の切り下げに反対する会長声明

厚生労働省は、2007年10月19日、学識経験者によって構成される「生活扶助基準に関する検討会」(以下「検討会」という。)を開催し、生活扶助基準及び級地の見直しに着手した。その後も、検討会は急ピッチで進められ、一般低所得世帯の生活実態との比較検討、及び「級地」制度の見直しを議題とした上、最終的には、生活扶助費が低所得世帯の生活費を上回っているとの報告書をまとめた。これを受け、生活扶助基準は、来年度予算編成において4年ぶりに引き下げられる見通しとなっている。
国税庁がまとめた2006年民間給与実態統計調査によると、昨年通年で勤務した給与所得者のうち、年収200万円以下の人は1022万7000人と前年比で4.2%増加、実に4.4人に1人の割合となった。このような状況を受け、昨年来、人並に働いていても、収入が生活保護制度における最低生活費にすら満たない「ワーキングプア」に関する報道が大きな反響を呼び、先般成立した改正最低賃金法では、生活保護との整合性に配慮することを明記した上で、最低賃金の引き上げの道が開かれたところである。このように、ワーキングプア層を生み出す現在の経済・労働環境の改善が問題とされている今、生活保護基準を引下げることによって安易に現状との矛盾を解消しようとすることは、議論のたて方が逆であり、かかる現状を容認する契機ともなりかねない。
しかも、生活保護基準は、国民健康保険料の減免基準、介護保険の保険料・利用料・障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動している。よって、生活保護基準の切り下げは、単に生活保護利用者のみの生活レベルを引き下げるだけではなく、ボーダーラインにある層を保護の対象外へとはじき出し、前記のような諸制度を利用している市民の生活にまで直接の影響を及ぼすもので、ひろく市民生活全般の生活水準を切り下げていく危険性をはらんでいる。
以上からすれば、生活保護基準の切り下げにむけた議論は、公開の場で、十分に時間をかけて慎重になされるべきであるが、厚生労働省が第一回検討会の開催を発表したのは、10月16日と検討会開催のわずか3日前であり、11月30日には、開催からわずか2か月足らずで検討会が打ち切られ、手続面でも大変拙速なものといわざるをえない。
当会としても、昨年度の日弁連人権大会決議を受け、生活困窮者支援特別委員会を設立するなど、生活困窮者の支援、生活保護制度をめぐる諸問題にも取り組んできたところであるが、このたびの「検討会」のありかたには疑問を持たざるをえず、また今後予想される安易かつ拙速な生活保護基準の引き下げには、断固反対する。

以上

2007年(平成19年)12月3日
埼玉弁護士会 会長  小川 修

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