2008.05.14

自衛隊イラク派兵差止訴訟名古屋高裁判決に関する会長声明

  1. 本年4月17日、名古屋高等裁判所は、「自衛隊イラク派兵差止訴訟」控訴審判決の中で、現在イラクで行われている航空自衛隊の空輸活動は、「武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ憲法9条1項に違反する活動を含んでいる」との判断を示し、先日、同判決は確定した。
  2. 同判決は、イラクの首都バグダッドは、アメリカ軍がシーア派及びスンニ派の両武装勢力を標的に多数回の掃討作戦を展開し、これに武装勢力が相応の兵力をもって対抗し、双方及び一般市民に多数の犠牲者を続出させている地域であることから、「国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し、又は物を破壊する行為が現に行われている地域」というべきであって、「イラク特措法」にいう「戦闘地域」に該当するとした。
    そのうえで、アメリカから要請された航空自衛隊の空輸活動のうち、「少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドへ空輸するものについては、他国による武力行使と一体化した行動であって、自らも武力の行為を行ったとの評価を受けざる得ない」と述べている。
  3. また、同判決は、憲法前文の「平和的生存権」について、「現代において憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしには存立し得ないことからして、全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利である」と述べ、この権利に基づき、裁判所に対して、政府の違憲な行為の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる場合があると解釈した。
  4. 同判決の上記各判示は、自衛隊のイラク派兵を憲法9条等に違反するとする原告側の主張に対し、イラク戦争の実態と自衛隊の多国籍軍に対する兵站支援の状況を数々の証拠に基づいて認定した上で違憲判断に踏み込んだもので、司法府の本来の職責を全うしたものであるとともに、平和的生存権についても具体的な裁判規範性を認めた初めての高裁レベルの判断であり、まさに画期的なものである。
  5. 当会は、かねてより、イラク特措法に基づく自衛隊のイラク派兵について、それが徹底した平和主義を採る日本国憲法に抵触する疑いが極めて強いことを理由に反対の立場を明らかにしてきたが、改めて、政府に対し、違憲審査権を行使した今回の司法判断を尊重し、直ちに、自衛隊のイラク派兵を中止して、撤退するよう強く求めるものである 。

以上

2008年(平成20年)5月14日
埼玉弁護士会 会長  海老原 夕美

戻る