2008.09.24

労働のルールの確立に向けて緊急に取り組むべき 労働者派遣法の改正に関する提言

2008年(平成20年)9月24日 埼玉弁護士会

第1 人間らしく働き生活するための「労働のルール」についての提言

  1. 派遣労働に対する規制強化
    いま,我が国では,労働者が人間らしく働くための労働のルールを確立することが強く求められている。とりわけ,労働者派遣に対する規制強化は,今日の貧困問題を克服するための喫緊の課題である。
    その際の基本的視点は,雇用契約は「直接・常用雇用」が原則であり,派遣労働が「直接・常用雇用」の代替となることを防止すべきことを確認し,そのうえで,派遣労働を雇用形態の「例外」として厳しく制限することである。
    そして,「例外」として,派遣労働を認める場合にも,派遣労働における雇用不安と差別的賃金を是正するための方策として,派遣労働者から正規雇用者への転換の途を開く「みなし雇用」の制度を創設し,かつ派遣労働者の賃金水準を向上させるための法整備を図るべきである。
  2. 今具体的提言
    そのための具体的な法制度としては,下記の内容を含む派遣労働に対する規制強化が不可欠である。派遣労働の拡大に歯止めをかけ,深刻化する貧困問題を打開するために,労働のルールの確立に向けた労働者派遣法の抜本的な改正が必要である。
    (派遣労働について)
    1. 派遣労働の対象業務は,臨時的かつ専門性の高い業務に限定すること。
    2. 派遣労働における日雇い派遣は禁止すること。
    3. 派遣労働における登録型派遣は,原則として禁止すること。
    4. 派遣受け入れ期間を1年に制限すること。
    5. 派遣労働者と派遣先正社員との均等待遇を義務づけること。
    6. 派遣労働が1年を超えたとき,あるいは,派遣業者に派遣法違反の行為がある場合には,派遣先会社との正規雇用を擬制すること。
    7. 派遣業者のマージン率(派遣料金から派遣労働者の賃金を差し引いた金額)の規制をすること。
    8. 派遣先企業の責任を強化すること。

第2 提言の理由

第1 現行憲法における「勤労権」の保障

  1. 生存権の保障
    現行日本国憲法は,すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するとともに,国家に対して,社会保障制度を充実させる義務を課している(憲法25条1項,2項)。
  2. 勤労権の保障
    同時に,現行憲法は,労働者が人間らしく働く権利を保障し,そのための最低労働条件は,国の法律で定めると明記している(憲法27条1項,2項)。つまり,憲法は,企業と労働者の力関係の如何にかかわらず,すべての労働者に人間らしく働くための労働条件を国の法律で保障しようとしているのである。
    このことは現代の雇用関係においては,企業がその利潤追求のために,労働者を劣悪な労働条件のもとで酷使してはならないことを意味する。いかなる企業も非人間的な労働を労働者に課してはならないのであり,このことは「人間の尊厳」を基調とする現行憲法から導かれる本質的要請である。

第2 非正規雇用の拡大と「貧困・格差」の深刻化

  1. 非正規雇用の拡大
    1990年代以降,政府は,「構造改革」の名の下に,労働法制の「規制緩和」を重ねるとともに,医療,介護,年金,生活保護などの社会保障の切り下げを図り,さらには消費税を増税する一方で大企業に対する減税をすすめてきた。
    そして,労働法制の「規制緩和」と企業のリストラ「合理化」が相まって,企業内では労働者の正規社員から非正規社員への置き換えが進み,いまでは,働く者の3人に1人は,派遣,契約社員等の非正規雇用である。派遣労働者の総数は,321万人を超えている。
    こうした状況がもたらされた背景には,バブル経済崩壊後の長期不況や国際競争力の強化などを理由に,経済界が雇用の「多様化」「流動化」を求めるようになったことがある。
    1995年に日経連(日本経営者団体連盟,2002年5月に経済団体連合会と統合して日本経団連となる。)が発表した「新時代の『日本的経営』」と題する提言には,経済界の要望が端的に現れている。 提言によれば,労働者を,1.管理職,技術部門の基幹職を対象とする長期蓄積能力活用型,2.企画,営業,研究開発等の専門職を対象とする高度専門能力活用型,3.生産や営業の現場で働く一般職を対象とする雇用柔軟型に分け,期間の定めのない雇用は1.のみで2.3.は有期雇用とするとされている。
    経済界の要望は,期間の定めのない正規雇用者を減少させ,労働者派遣,有期雇用などの非正規雇用への置き換えをすすめるとともに,正規雇用者については成果主義賃金を適用することにより,総人件費を削減して利潤の最大化を図ることにあるのである。
  2. 「貧困・格差」の深刻化
    非正規労働者の劣悪な労働実態については,さまざまな実態調査においてその一端 が明らかになっている。
    非正規労働者は,期間満了による雇い止めの不安にさらされ,しかも,正規労働者との差別的な低賃金を余儀なくされている。現在,年収200万円以下の労働者は1000万人を超え,普通に働いても生活保護水準以下の生活から抜け出せない世帯は450万~600万世帯にのぼると言われている。彼らは,不安定雇用と低賃金のために将来に希望を持って安心して働くことができず,将来不安のために結婚や出産さえもためらわざるを得ない境遇におかれている。
    なかでも日雇い派遣労働者は,1日ごとの労働契約によって,いわば「使い捨て」状態におかれ,居住場所さえ確保できない「ネットカフェ難民」「ホームレス」に落ち込むケースも少なくない。
    非正規労働の拡大が「ワーキングプア」(働く貧困層)という現代の貧困を生み出しているのである。
    このような貧困と格差をもたらした「構造改革」は,すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を生存権として保障する憲法25条,そして,すべての労働者に人間らしく働くための労働条件を法律で保障しようとする憲法27条を侵害するものというほかない

第3 労働者派遣法の抜本的な見直しを求める

  1. 労働者派遣法成立・改正の経緯
    この間の労働者派遣法の成立・改正の経過は,次のとおりである。
    戦後,職業安定法44条により,労働者派遣によるいわゆる「中間搾取」は禁止されてきた。ところが,1985年労働者派遣法が成立し,職業安定法44条の例外として,16業務について,労働者派遣が認められることになった。1996年の改正では,16業務から26業務へと派遣対象業務が拡大している。
    そして,1999年の改正により,派遣対象業務が原則自由化され,派遣対象業務が大幅に拡大することになる。2003年改正では,派遣対象業務が「製造業務」についても解禁されるに至った
  2. 現行法の主な問題点
    派遣法成立以来の構造的な問題点としては,以下の3点があげられる。低賃金で解雇が容易であり、労働組合が組織しにくい「日本的派遣労働」が大きく広がった背景には,派遣法に以下のような構造的問題点がある。
    1. 成立の経緯
      わが国の派遣法は,成立当初から経営者側に有利な形態を備えていた。
      派遣労働は本来「一時的労働(temporary work)」であり,かつ「派遣から常用へ」というのが,ヨーロッパにおける労働者派遣の大前提である。ドイツやイタリアでは,派遣終了後に常用雇用される者が3割から5割に達するという。しかし,我が国の派遣法のもとでは長期の労働者派遣が可能である。
      派遣労働という概念を輸入する際に,一時的労働と翻訳せずに「派遣」という語を用いたこと自体から,この法律が長期派遣を容認していることが推測される。
    2. 差別待遇を禁止していないこと
      諸外国では,派遣労働者につき,派遣先で同じ仕事をする労働者と同一かそれ以上の待遇でなければならないという法規制がなされている。一般労働者よりも不安定になってしまうという派遣労働の短所を,保護的法規制によって均衡を図るというのが,ヨーロッパ諸国に共通するスタイルである。
      ところが,我が国では不安定雇用に加えて差別的労働条件の派遣労働を容認しており,労働者保護という点では,諸外国に大きく劣っている。差別待遇を禁止ないし是正措置を定めないという点では,わが派遣法は世界に例を見ない異常な法規制ともいえる。また,差別待遇の容認が,労働力を商品として扱い,価格のダンピングを生む元凶ともなっており,派遣労働者の待遇悪化に拍車をかけている。
    3. 形骸的存在である派遣元を雇用主としていること
      我が国派遣法および労働行政の法運用は,派遣元と派遣労働者の関係が基本であり,そこにのみ労働契約関係が成立して派遣元が雇用主として基本的責任を負うという形式論を採用してきた。
      したがって,労基法の使用者責任も派遣元に比重を置いて配分され,36協定締結,労災保険の加入などは,派遣元のみに適用されている。
      しかし,その一方,登録型派遣が認められたために,派遣の空白期間でも派遣元は賃金支払いや休業保障責任を免除されている
  3. 具体的な改正点の検討
    上記の構造的な問題点を踏まえて,以下に具体的な問題点を検討する。
    1. 派遣法の趣旨,目的と雇用の原則の確認
      本来,労働者保護法として機能すべきである労働者派遣法が,これまでは,派遣労働を使い勝手のよいものにしようとする経営者側の強い要請を反映して立法,改正がなされてきたという経緯がある。
      そこで,原理原則に立ち戻って,この法律が,適職保障,職業選択の自由,差別禁止,均等待遇,労働条件の整備,雇用の安定等々,労働者の権利の保障を目的とするものであることを,法の目的として第1条に明確に記載するべきである。
      それに加えて,派遣労働を規制する派遣法としては,あくまでも直接雇用が原則であること,派遣労働はあくまで例外的な形態であること,常用雇用の代替としての派遣労働は禁止されることを明示する必要がある。
    2. 派遣対象業務の限定
      対象業務となる業務の範囲については,高度な専門性を要する臨時的な業務という観点から厳格に限定すべきであるが,1999年改正の派遣対象業務の原則自由化が「日雇い派遣」を拡大させたことから,対象業務を少なくとも改正以前の26業務に限定する必要がある。
    3. 日雇い派遣,登録型派遣の禁止
      これらの派遣形態は,不安定雇用の最たるもので,派遣法の弊害が著しい部分である。したがって,まず,究極の不安定雇用である日雇い派遣は禁止をすべきである。また,登録型派遣についても,原則としてこれを禁止したうえで,例外を厳しく制限すべきである。
    4. 派遣受け入れ期間の制限
      派遣受け入れ期間については,現在3年を上限としているが,その上限を1年とすべきである。
      長期就業の実現のためには期間制限を撤廃すべきとの意見もあるが,これは本末転倒である。これでは,派遣労働の「常用代替」を法が追認することになってしまう。 また,形だけのクーリング期間を設けるために,3か月と少しだけ直接雇用をして再び派遣に戻すという脱法行為が行われていることから,かかる期間制限の潜脱行為への規制も同時に必要となる。
    5. 均等待遇の法定
      派遣労働者が正規雇用の労働者よりも劣悪な条件で働いていることから,これを改善するために均等待遇の法定は改正に欠かせない条項といえる。
      また,派遣労働者への均等待遇が法定されれば,派遣先企業は派遣費用の分だけ派遣労働者には多く人件費を割かねばならないことになる。そうすると,派遣労働者を使おうという動機付けが減少するから,必要度の高い派遣先のみが,派遣労働者を使用することになり,派遣労働者への需要が減る。一時的・臨時的に業務量が増大したときに,少し高くつくけれども派遣労働者を使うという,本来あるべき派遣労働の形態に近づくことが期待できる。また,同時に正規雇用を選択する間接的圧力としても効果を発揮すると考えられる。
      また,格差是正という観点から,均等待遇は賃金や労働内容にかぎらず,教育や研修の面での均等も達成されなければならない。
    6. 「みなし雇用制度」の創設
        前述の「常用代替」禁止という本来の派遣労働の原則を貫くためには,派遣労働がその受け入れ制限を超えたとき,派遣先会社との正規雇用を擬制することが必要である。
    7. 偽装請負など違法派遣に対する「みなし雇用制度」の適用
      また,偽装請負など派遣業者に派遣法違反の行為がある場合にも,派遣先会社との正規雇用を擬製することが必要である。
      この間,キャノンなどの大企業における偽装請負が社会的批判を浴びてきたが,偽装請負は,実際には労働者派遣であるのに,形式的には請負契約のかたちをとって,派遣法の派遣期間の制限を潜脱しようとする悪質な違法行為である。
      松下プラズマディスプレイの労働者が偽装請負に関連した解雇を争った事件では,大阪高裁判決(2008年4月25日)は,松下プラズマの偽装請負という違法行為を認めたうえで,派遣先企業と派遣労働者との間に「黙示の雇用契約」を認定した。つまり,派遣法違反の場合における派遣労働者と派遣先企業との直接雇用契約の成立を確認したのである。このような判決の考え方を法制化することが必要である。
    8. マージンの制限
      多額のマージン取得(いわゆる中間搾取)が労働者の賃金水準の低下を招いていることから,労働者派遣においてもマージン率の上限規制を設けることが求められる。
      また,マージンが開示されることが,マージン率上昇の一定の歯止めになると考えられるから,マージンの開示義務化も併せて必要となる。
    9. 派遣先企業の責任強化
      現行派遣法は,派遣元を取り締まり対象とした業法としての性質を持っている。派遣先についてはごく一部をのぞき派遣先使用者に対しては行政上の指導がなされるだけで,法的責任が直接問われることはない。派遣法等に定められている「事前面接禁止」「派遣就労可能期間の通知義務違反」などの規定に違反した派遣先について,使用者責任を問いうる効力のある規定が必要である。
  4. 厚生労働省発表の報告書の検討
    平成20年7月28日,厚生労働省から「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」(以下「報告書」という。)が発表された。
      厚労省の研究会の発表であるから,今後の現実的な法改正に対する影響も非常に大きいことが予想される。そこで,以下,主に上記で検討した論点について批判的な検討を加える。
    1. 日雇派遣について
      報告書は,雇用者責任が果たされず,労働災害の多発や違法派遣の原因ともなりうるから原則として禁止を検討すべきとしている。この点に関しては,報告書の結論は,一応の評価ができる。しかし,例外を許容している点で,例外を広く認めることになれば規制の意味がなくなるおそれがある。
    2. 登録型派遣について
      報告書は,登録型派遣に雇用の不安定さなどに問題があることを認めつつ,1.こうした働き方を選んで働いている労働者が多くいる2.迅速な労働力需給調整の仕組みとしてメリットがある3.就業機会の確保を迅速に行えて,安定した雇用につなげることも可能であるとして禁止することは適当ではないとしている。
      しかし,1.の労働者が自ら欲してこの種の就労形態を選択しているかどうかは,はなはだ疑問である。正規雇用の職に就くことができずに,やむなく登録型派遣労働についている者が多いことを考慮に入れるべきである。また,2.については企業側のメリットに過ぎず,3.については就労機会の確保は本来は公的な職業紹介機関の役割である。
      登録型派遣が招く不安定雇用の弊害に鑑みれば,登録型派遣は原則禁止して,例外を厳しく規制すべきなのである。
    3. 均等待遇について
      報告書は,均等待遇については,現状では導入すべきではないとしている。その理由として,わが国では,職種別賃金が確立していないことをあげている。つまり,同じ派遣元に雇用されながら異なる派遣先に派遣される同種労働をしている派遣労働者間で,賃金格差が生じることを問題視して,導入反対の論拠としている。
      しかし,2倍とも3倍とも言われている派遣労働者と正規雇用の賃金格差が最大の問題なのであるから,派遣労働者にとって均等待遇原則を導入する利点の方が大きいのは明らかである。また,現に職種別賃金が確立していない韓国においても,均等待遇原則が導入されていることは,報告書の理由に根拠がないことを示している。
      派遣法の抜本的改正にとって,派遣先労働者と派遣元労働者の均等待遇は不可欠な要素であって,報告書の考え方には問題があると言わざるを得ない。
    4. マージンについて
      報告書は,マージンを規制すると,労働者の教育訓練費を減らすインセンティブになりかねず労働者の不利益になるおそれがある,労働者派遣業についてのみ賃金設定を規制することに合理的理由はない,などとして規制に反対している。
      しかし,そもそも,労働者から中間搾取をすること自体に反社会性が内在していたがゆえに職業安定法が長期にわたってその行為を禁止していたのであるから,マージン規制に合理的理由がないなどとは言えないはずである。
      また,マージンを規制すると労働者の教育訓練費を減らずインセンティブになるというが,派遣労働者の賃金水準の低さに鑑みれば,マージンを規制しないほうが労働者にとってはよほど不利益である。
    5. 期間制限について
      報告書は期間制限については維持すべきとしているが,「常用雇用」の代替禁止という労働者派遣法の趣旨から考えれば,現行法では3年とされている派遣期間の短縮の議論がなされるべきである。
    6. 小活
      以上報告書について主要論点について検討したが,日雇い派遣の原則禁止を除いては,どの点についても,派遣労働における雇用者側の利益を重視しており,根本的に労働者の地位向上という立場からの検討がなされているとは言えない。さらに,派遣対象業務の見直しの議論がなされていないことは重大な問題である。派遣法の抜本的改正にはほど遠い内容と言わなければならない。
  5. 厚生労働省発表の「たたき台」の検討
    ところで,厚生労働省は,上記報告書を基本にして,平成20年8月28日,労働政策審議会・職業安定分科会・労働力需給制度部会に対して,「今後の労働者派遣制度のあり方の論点について」(たたき台)を示した。
    この「たたき台」にも,日雇い派遣について,30日以内の短期雇用を原則禁止することが記載されている。
    そして,さらに,不安定な登録型派遣の常用化をすすめるとして,1年以上の派遣労働者は期限のない派遣労働者に雇い入れることなどを派遣先の努力義務としていること,派遣労働者の待遇について,派遣先の同種の労働者の賃金を考慮するように指針に定めるとしていること,派遣料金などの情報公開を義務づけていること,違法派遣については派遣先が従前以上の条件で雇用契約を申し込むように行政が勧告するとされていることなど報告書からの若干の前進も見受けられる。
    しかしながら,上記報告書と同様,登録型派遣の原則禁止は盛り込まれていない。日雇い派遣の原則禁止についても,その例外を広く認める立場にたった緩やかな規制となっている。また,派遣労働が派遣期間を超えたとき,あるいは,派遣業者に派遣法違反の行為がある場合の「みなし雇用制度」も見送られている。派遣先労働者との均等待遇の原則も確認されていない。報告書と同様,派遣対象業務の見直しの議論がなされていないことも重大な問題である。
    「たたき台」については,報告書からの若干の前進面を考慮するとしても,このままでは労働者派遣法の抜本的改正にはなお不十分であるというほかない。

第4 ヨーロッパ諸国の派遣規制

ヨーロッパ諸国では,労働者派遣を通常の働き方とは異なる例外的な働き方とみなし、労働者派遣事業に厳格なルールを設定し,派遣事業の濫用から労働者をまもる保護措置を法律で定めている。1.派遣を受け入れる事由を臨時的・一時的な業務に制限2.派遣期間を短期に制限,3.派遣先労働者との均等待遇,4.「みなし雇用」制度などは各国に共通にみられる労働者派遣に対する規制である。
例えば,フランスでは,労働者派遣は,恒常的な仕事に労働者派遣を利用することはできないことになっており,派遣期間の制限は,最長18ヶ月である。また,労働協約において,派遣先労働者との均等待遇の定めがなされている。さらに、18ヶ月の派遣受け入れ期間を超えて派遣労働者を働かせた場合には,派遣先はその労働者との間で期間の定めのない雇用契約を締結したものとみなしている。そして,派遣先が労働者派遣法に違反して派遣労働者を使用し続けた場合には,派遣労働者は期間の定めのない雇用契約を求める権利を有することになる。
また,近年では,EU(欧州連合)レベルにおいても,派遣労働者の増加傾向を受けて,EU指令制定への動きがでてきている。今年6月10日には,EUの閣僚理事会が派遣労働者に正規労働者と同等の権利を認めることを盛り込んだ派遣労働者指令案に合意をし,今後の欧州理事会における指令案の採択が見込まれている。
このように,ヨーロッパ諸国では,労働者派遣は、臨時的・一時的な業務に限定され,リストラに利用したり,常用代替にしてはならないというルールが定められている。さらには,労働者派遣に,失業者に就職先を提供し,正社員化につなげていくという役割があたえられているのである。
派遣労働の対象について規制緩和を繰り返し,企業のリストラ「合理化」によって常用雇用の派遣労働への置き換えを進めてきた我が国とは,その規制の考え方が根本的に異なっている。
労働者派遣法の抜本的改正を議論する際には,こうしたヨーロッパ諸国に派遣法制を大いに参考にすべきである。

第5 結論

いま,我が国に求められていることは,派遣労働者の労働環境を改善するために,派遣労働は臨時的かつ専門性の高い業務に限定すること,弊害の顕著な日雇い派遣は禁止すること,登録型派遣は原則として禁止すること,派遣先の正社員との均等待遇を義務づけること,「みなし雇用制度」を創設することなどを含む,労働者派遣法の抜本的な改正を図ることである。
労働者が人間らしく働くための労働のルールを確立し,深刻化する貧困と格差を克服するためには,こうした派遣労働のあり方の抜本的な改革が不可欠であり,そのための法改正はまさに急務である。

以上

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