2008.11.11

労働者派遣法の抜本的改正を求める声明

  1. 政府は、11月4日、日雇い派遣の原則禁止などを内容とする、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「派遣法改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。
    しかしながら、派遣法改正案の内容は、派遣労働に対する規制が不十分であり、労働者派遣法の抜本的改正にはほど遠いものといわざるを得ない。
  2. 派遣法改正案の内容は、日雇い派遣については、30日以内の期間を定めた短期派遣を原則禁止するにとどまり、30日を超える契約さえ結べば不安定な短期派遣が可能となる法制となっている。30日以内の日雇い派遣についても、事務機器操作など18業務については専門性を理由に例外が認められ、日雇い派遣以外の登録型派遣については規制強化が見送られ、1999年に原則自由化された派遣対象業務の見直しもなされていない。かえって、期間の定めのない派遣労働者については、派遣先の労働契約申込義務の対象から除外され、あるいは、派遣先が労働者を特定・選別することを容認するなど規制が緩和されている。このような改正案では、派遣労働が「常用雇用」の代替として社会に蔓延することを防止することはできない。
    また、改正案では、派遣労働が派遣期間を超えたとき、あるいは、派遣業者に派遣法違反の行為がある場合についての「みなし雇用制度」も見送られている。欧州諸国で採用されている派遣先労働者との均等待遇の原則は、派遣契約締結の際の考慮要素に過ぎないとされ、派遣業者のマージン率(派遣料金から派遣労働者の賃金を差し引いた金額)の上限規制も置かれていない。これでは派遣労働者の労働条件の実効的に向上させることも不可能である。
  3. いま、我が国では、労働者が人間らしく働くための労働のルールを確立することが強く求められている。とりわけ、労働者派遣に対する規制強化は、今日の貧困問題を克服するための喫緊の課題である。その際の基本的視点は、雇用契約は「常用雇用」が原則であり、派遣労働を「常用雇用」の代替としないことを確認し、そのうえで、派遣労働を雇用形態の「例外」として厳しく制限することである。
    そして、「例外」として、派遣労働を認める場合にも、派遣労働における雇用不安と低賃金を是正するための方策として、派遣労働者から正規雇用者への転換の途を開く「みなし雇用」の制度を創設し、かつ派遣労働者の賃金水準を向上させるための法整備を図るべきである。
  4. 派遣労働の拡大に歯止めをかけ、派遣労働者の労働条件を実効的に向上させるために は、次のような労働者派遣法の改正が不可欠である。
    1. 派遣労働の対象業務は、臨時的かつ専門性の高い業務に限定すること。
    2. 派遣労働における日雇い派遣は禁止すること。
    3. 派遣労働における登録型派遣は、原則として禁止すること。
    4. 派遣受け入れ期間を1年に制限すること。
    5. 派遣労働者と派遣先正社員との均等待遇を義務づけること。
    6. 派遣労働が1年を超えたとき、あるいは、派遣業者に派遣法違反の行為がある場合には、派遣先会社との正規雇用を擬制すること。
    7. 派遣業者のマージン率の上限規制をすること。
    埼玉弁護士会は、労働者が人間らしく働くための労働のルールを確立する立場から、上記のような労働者派遣法の抜本的改正を求めるものである 。

以上

2008年(平成20年)11月11日
埼玉弁護士会 会長  海老原 夕美

戻る