2009.06.10

司法修習生に対する給与制の継続を求める声明

2010年11月から,司法修習生に対して給与を支給する給与制を廃止し,貸与制に移行することとなっている。これに対し,当会は,貸与制を速やかに廃止し,改めて給与制を復活することを求めるものである。

  1. そもそも,司法修習生に対する給与制を廃止・貸与制への移行は2004年11月の裁判所法改定において定められたものであるところ,同法改定に際しては,(1)国家公務員の身分をもたない者に対する給与の支給は極めて異例の取り扱いであること,(2)司法修習は個人が法曹資格を取得するためのものであり,受益と負担の観点からすれば必要な経費は修習生が負担すべきであること,(3)現行の給与制は,法曹人口が希少であった戦後間もなく導入されたものであるが,法曹人口に係る情勢は大きく変化したことが理由として挙げられた。
    その一方で,上記裁判所法改定に際しては,衆・参両院において,給与制の廃止及び貸与制の導入によって統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれないように,また,経済的事情により法曹への道を断念する事態を招くことがないように,法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め関係機関と十分な協議を行うことが附帯決議として決議された。この附帯決議は,法曹養成について,「法曹の使命の重要性や公共性に鑑み,高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を要請する」との認識に基づいている。
  2. 今,正に衆・参両院の附帯決議の実行が求められる事態となっている。
    そもそも法曹という職業には,社会の中において公共的任務を遂行することが求められている。単なる個人的な興味や関心が追及されるだけで,それぞれの職業を全うしたものと評価されることはない。それは,公務員たる法曹である裁判官や検察官に限らず,一民間人である我々弁護士も同様である。このことは,弁護士法第1条第1項においては,「弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。」と規定され,第2項において,「弁護士は,前項の使命に基づき,誠実にその職務を行い,社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」とされていることからも明らかである。現に数多くの弁護士がこの観点に立って,プロボノ活動に傾注していることは顕著な事実であるし,当会も含めた全国各地の弁護士会が,人権擁護や環境保全をはじめとする公益的観点に基づく活動に邁進している。
    司法制度改革審議会は,法曹に対し,「社会生活上の医師」としての機能を期待する旨明言してきたが,そうであるならばなおさら,その人的基盤の基礎を作る法曹養成は,単なる法曹個人の受益の枠を超えた社会的要請に基づくものだと言わざるを得ない。
    ところで,前記の裁判所法改定と同時期に,医師国家試験合格者には2年間の臨床研修及びアルバイト禁止の研修専念義務が課せられたが,その義務化に対応して,研修医には国庫からの補助により研修に専念できる程度の給費が支給されることになった。これは,医師に期待される役割の公共性に基づくものであるが,この点も想起されるべきである。
  3. 前記のような法曹養成についての社会的要請に応えるためには,社会の多様化・高度化に対応する質・量ともに豊かな法曹を確保しなければならない。その入口に当たる法科大学院には,多彩で有為な人材が入学することが必要である。
    しかしながら近時,法曹になるまでに多額の費用を要するにもかかわらず司法試験の合格率が低いなどのリスクから,社会人経験者等の多様な人材が法曹を目指すに当たって,その道を狭めているとの指摘がある。
    このような状況を克服するため,現在,法科大学院等関係機関においては有為な人材を豊富に法曹への道に集めるための様々な努力を続けているところであるが,その中で,法曹になるまでのコスト負担をさらに増大させることになる貸与制の実施は,これらの努力に真っ向から反するものと言わざるを得ない。
    また,貸与金を受けつつ法曹資格を取得して弁護士となった者は,貸与金の返済を第一に考え,弁護士としての公益的業務を敬遠するのではないかとの懸念も指摘されている。
  4. 当会は,かような現状に鑑み,司法修習生に対する貸与制を速やかに廃止し,改めて給与制を復活すべく,関係各機関に対し,条件整備の措置を講ぜられるよう求める。
    また,同時に,法曹養成のための財政支援の在り方についても協議・検討が進められることを求める。

以上

2009年(平成21年)6月10日
埼玉弁護士会会長  小出 重義

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