2010.01.07

社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間賃貸住宅部会「中間とりまとめ」における賃借人(入居希望者)の家賃滞納等の信用情報のデータベース化等に関する意見書

国土交通大臣  前原 誠司 殿

意見の趣旨

社会的弱者の民間賃貸住宅確保,及び,個人情報保護の観点より,家賃滞納や支払状況などの賃借人(入居希望者)の信用情報に関するデータベース化,及び,同情報の賃貸借契約締結時における審査利用について,反対する。

意見の理由

国土交通省社会資本整備審議会住宅宅地分科会民間賃貸住宅部会は,平成21年8月12日「中間とりまとめ」を発表した。
この「中間とりまとめ」においては,「賃貸人が安心して賃貸住宅を市場に供給できる環境を整備するために,反復継続的な滞納を行う賃借人(入居希望者)に関する信用情報を入手できるようになることも必要と考えられる。このことにより,賃貸市場が活性化し,賃借人(入居希望者)にとって市場での選択の幅が広がるとともに,反復継続的な滞納等の問題を起こさない一般の賃借人(入居希望者)の利益にもつながると考えられる。」として,家賃滞納等の信用情報をデータベース化することが検討されている。
これを受け,財団法人日本賃貸住宅管理協会は,一般社団法人全国賃貸保証業協会を設立し,1~2年後をめどに,家賃滞納や支払状況などの賃借人の信用情報に関するデータベースを構築し,家賃保証委託契約の審査に利用する構想を,平成21年9月29日に発表した。
しかしながら,住まいは,人々のくらしにとって最も根幹的な生活の基盤であるから,これを金融分野における信用情報と同様の視点から考えるべきではない。
すなわち,家賃滞納に至る経緯は人によって千差万別であって,家賃滞納者の中には,雇用を喪失した者や雇用が不安定な者,低所得者等,やむを得ない理由により家賃を滞納せざるを得なかった社会的弱者が多く含まれている。
にもかかわらず,悪質な家賃滞納者を排除するという名目の下,信用情報データベースを構築すれば,賃貸人側の一方的な判断により,家賃滞納に至った経緯や理由を一切考慮せず,これら社会的弱者をも一律に「家賃滞納者」というグループに含め,民間賃貸住宅市場から排除し,その生活の基盤すら奪うことに繋がりかねない。
また,家賃滞納等の信用情報がデータベース化されれば,多くの個人情報が蓄積されることとなる。そうなれば,賃貸人がこれらの個人情報を利用して,入居希望者の勤務先や国籍,年齢,家族構成等により入居差別を行うことも懸念される。
特に,住まいを有しない者の就職が極めて困難な現状に鑑みれば,信用情報のデータベース化は,更なる貧困率の増加にも繋がりかねないのである。
そもそも,かかる個人情報の取得・利用自体が,仮に賃借人の同意を得られても,そのことは,「同意をしなければ貸さない」とする契約締結時における賃貸人の有利な地位を濫用したものであり,公正性もない
したがって,家賃滞納等の信用情報のデータベース化は,社会的弱者を民間賃貸住宅市場から排除し,その生活の基盤を奪い,更なる貧困を招くことにも繋がりかねないものであるから,断固反対する。

以上

2010(平成22)年1月7日
埼玉弁護士会会長  小出 重義

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