2010.03.18

朝鮮学校を「高校無償化制度」の対象とすることを求める声明

  1. 本年3月16日,「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(以下「本法律」という)案が衆議院本会議において可決され,参議院に送られた。今後,本法律は来る4月1日には施行される見通しとなった。
    本法律案の概要は,公立の高等学校については授業料を不徴収とし,私立学校の生徒については,世帯の所得に応じて,高等学校等就学援助金(11万8800円~23万7600円)を助成するというもので,締約国に中等教育の漸進的無償化を求める子どもの権利条約28条1項(b)や(批准の際に日本は留保を付したとはいえ)社会権規約13条2項(b)の趣旨にも適うものといえる。
  2. ただ,本法律案において,外国人学校については「各種学校」に該当するものが無償化の対象となり,それは「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」(2条1項5号)とされているところ,先日の3月12日,政府は,朝鮮学校がこの各種学校に該当するかどうかに関する結論を当面留保して,最終的には第三者による評価組織を新たに設けて決定することとした。
  3. しかしながら,そもそも,本法律案は,「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り,もって教育の機会均等に寄与することを目的とする」(1条)ものであり,そのような「経済的負担の軽減」や「教育の機会均等」は,朝鮮学校の生徒・保護者にとっても等しく必要な事柄のはずである。
  4. また,政府内では,朝鮮学校が「高等学校の課程に類する課程」を置く学校であるかの確認ができないので,無償化の対象とし得ないとの見解もある旨報道されている。しかし,朝鮮学校の教育課程に関する情報は,学校認可を受ける際に提出されているうえ,朝鮮学校自らがホームページ等でも公開している。これらに加え,必要に応じて,朝鮮学校側から関係資料の提出を受けるなどして高等学校の課程との比較検討を行うことにより,上述の確認は十分可能といえる。この点は,現に,日本国内の殆どの大学・専門学校が,これらの方法で,朝鮮学校卒業生に入学資格を個別に認めていることからも明らかである。
  5. しかるに,報道によれば,政府は,朝鮮民主主義人民共和国にまつわる「拉致」や「核開発」等という諸問題の存在を理由に,朝鮮学校を本法律案の対象とするか否かの決定を上述のとおり先送りしたとのことである。これが事実とすれば,それは,外交上の配慮という現実の政治を,一人ひとりの生徒が学ぶ場である朝鮮学校に直接持ち込むに等しい暴挙である。
  6. 以上から,朝鮮学校を本法律案の対象から当面除外し最終的判断を先送りした前述の政府決定は,朝鮮学校の生徒を,合理的理由なく,対象と認められた他の外国人学校の生徒等と異なり不利益に扱うものといわねばならず,これは,憲法14条の平等原則に違反し,自由権規約26条,社会権規約2条2項,人種差別撤廃条約5条及び子どもの権利条約28条1項等が禁止する差別に当たる。実際,国連人種差別撤廃委員会も,本年3月16日に発表した「対日審査報告書」の中で,この朝鮮学校除外問題について「子どもたちの教育に差別的な影響を与える行為」として懸念を表明したところである。

よって,当会は,政府に対し,直ちに,「先送り決定」を撤回するとともに,朝鮮学校を本法律の対象とすることを求める。

以上

2010年(平成22年)3月18日
埼玉弁護士会会長  小出 重義

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