2010.04.13

派遣法改正案の抜本的修正を求める声明

  1. 政府は、2010(平成22)年4月6日、労働者派遣法改正法案を衆議院に提出した。しかしながら、改正案の内容は、派遣労働に対する規制が全く不十分であり、労働者派遣法の抜本改正にはほど遠いものといわざるを得ない。
  2. いま、我が国では、労働者が人間らしく働くための労働のルールを確立することが強く求められている。とりわけ、派遣労働に対する規制強化は、今日の貧困問題を克服するための喫緊の課題である。現在も多くの派遣労働者が低賃金で、しかも、いつ「派遣切り」されるか分からない状況の下で働いている。雇用契約は、正社員が原則的形態であることを確認し、そのうえで、派遣労働を雇用形態の「例外」として厳しく制限しなければならない。
  3. ところが、今回の改正案は、製造業派遣を原則禁止するとしながら、「常時雇用する労働者の派遣」(常用型派遣)を例外として認めている。現在、製造業に従事する派遣労働者は約55万人にのぼるが、そのうち約34万人は常用型派遣であり、禁止の対象とならない。常用型派遣とは「1年を超えて引き続き雇用され得ると見込まれる者」を含む概念であって、短期の有期雇用なども含まれるから、結局、約34万人は不安定な雇用状態が継続することになってしまう。製造業派遣は、全面的に禁止すべきである。また、改正案は、登録型派遣を原則禁止するとしながら、専門26業務を対象とする登録型派遣を認めている。現在、専門26業務に従事する約100万人の労働者のうち、約43万人は登録型派遣であるが、これらは禁止の対象とならないのである。そもそも専門26業務自体についても、「事務用機械の操作」「ファイリング」「建築物の清掃」など実態として専門性を有しない業務に従事させている例も多い。仮に、専門業務を登録型派遣の例外とするとしても、その範囲については、通訳、翻訳など高度の専門性を有する業務に限定すべきである。
    さらに、改正案は、派遣法違反等の一定の場合に派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申込をしたものとする「みなし雇用制度」を設けている。しかし、改正案は、直接雇用後の労働条件は、派遣元の労働条件と同一としている。多くの場合、派遣元との雇用契約は期間の定めがあるので、これでは直接雇用されてもすぐに雇い止めをされることになってしまう。「みなし雇用制度」を実効性のあるものにするには、直接雇用後の労働条件は、期間の定めのない契約とすべきである。
    このほかにも、改正案がグループ企業内派遣を8割まで容認していること、専門26業務に従事する期間の定めのない派遣労働者について「派遣期間が3年を超えた場合の派遣先の労働契約申込義務」を撤廃していること、施行時期について「登録型派遣の原則禁止」、「製造業派遣の原則禁止」については3年以内としていることなど、正社員から派遣労働への置き換えを追認する結果となる規定も置かれている。
  4. 以上のとおり、改正案は、現に拡大した派遣労働の大半を温存するものであり、労働者派遣法の抜本改正としては極めて不十分である。
    埼玉弁護士会は、労働者が人間らしく働くための労働のルールを確立し、国民の生存権、勤労権を守る立場から、国会における政府案の抜本的修正を強く求めるものである 。

以上

2010年(平成22年)4月13日
埼玉弁護士会会長  加村 啓二

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