2011.02.08

選挙制度改革に関する会長声明

  1. 国会議員の選挙制度について、政権与党である民主党は、参議院選挙区の議員定数不均衡の是正を図るとしながら、同時に、衆議院の比例代表選挙の定数(比例定数)を80議席削減することを表明し、今通常国会への法案の提出を目指している。
  2. この点、参議院選挙の議員定数不均衡問題に関しては、昨年7月の参議院選挙について、選挙区間の1票の価値の格差が著しく、憲法の要請する投票価値の平等に違反して違憲ないし違憲状態であるとの高裁判決が相次いでいる。
    そもそも、日本国憲法は、国民主権の原理に立脚し(前文、1条)、普通選挙制度を保障するとともに(15条3項)、両議院の選挙において選挙権の平等(44条但書)を規定している。このような憲法規範のもとでは、多様な民意が可能な限り忠実に国政へ反映されることが基本とされねばならず、そのためには、選挙における投票価値(選挙区間における1票の価値)・結果価値(投票が議席に結びつく効果)が平等となる選挙制度が求められるはずである。
    従って、今日の選挙制度改革において、参議院選挙における議員定数不均衡の是正が急務であることは明らかである。よって、当会は、その速やかな是正を求める。
  3. 他方、現在の衆議院選挙は、小選挙区選挙で300議席、比例代表選挙で180議席を選出する小選挙区・比例代表並立制で行われている。この比例代表選挙の部分は、政党の得票数に応じて政党に配分する議席数が決まり、政党が提出しておいた名簿によって当選者が決定されるもので、少数議席の諸政党等を通して多様な民意を国政に反映させるため導入されたものである。
    しかし、比例定数のみを80議席削減するということになれば、それはすなわち衆議院選挙における小選挙区制選出議員の占める比率がそれだけ高くなることを意味する。小選挙区制は、膨大な死票が必然的に伴い、投票における結果価値の不平等が著しい。二大政党制や政権の安定には資するものの、少数者を排斥する結果を招来する虞の高い選挙制度である。もともと、比例代表選挙は、こうした小選挙区制における少数者の排除という問題点を緩和するために並立されたものであるのに、比例定数のみを削減することになれば、小選挙区制のこうした弊害が一層際立ってくることになる。
    したがって、衆議院議員の選挙制度における比例定数の削減は、日本国憲法の基本原理である国民主権に照らして重大な問題がある。
  4. しかるに、民主党は、衆議院の比例定数削減理由として、国家財政逼迫状況のもとにおける財政健全化のためとの趣旨を述べるだけである。しかし、「財政健全化」の観点に立ったとしても、それには衆議院議員に係る歳費等の経費の額を見直す方向で検討すべきである。
  5. よって、当会は、憲法の国民主権原理のもとにおいて民意を可能な限り忠実に反映する選挙制度を求める立場から、衆議院の比例定数削減には反対するものである。

以上

2011年(平成23年)2月8日
埼玉弁護士会会長  加村 啓二

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