2011.09.16

法曹の養成に関するフォーラム第一次取りまとめに関する会長声明

内閣官房長官、総務大臣、法務大臣、財務大臣、文部科学大臣及び経済産業大臣の申し合わせにより開催されている「法曹の養成に関するフォーラム」(以下、「フォーラム」という。)は、本年8月31日、司法修習生の給費制問題について貸与制への移行を基本とする第一次取りまとめ(以下、「本取りまとめ」という。)を行った。

フォーラムが行った審議は、本年5月25日から8月31日までの約3か月という短期間にわずか5回、そのうち給費制問題については2回のみの審議により本取りまとめを行う一方で、法曹人口に関する目標の妥当性や法科大学院の在り方等の法曹養成制度全体にかかわる重要課題については今後の審議に委ねている。

このように法曹養成制度全体にかかわる重要課題について結論を先送りしたまま、給費制問題についてのみ貸与制への移行を基本とした本取りまとめは、法曹養成制度や給費制に関する本質的な議論を行わない拙速な取りまとめと評価せざるをえない。

給費制は、司法修習生に対して個人的な経済的便益を与えることを意図した制度ではない。そもそも、司法修習制度は、司法制度の最終的な受益者は国民であり、かかる制度を担う公益性のある人的インフラである弁護士、裁判官及び検察官を養成する責務が国にあるとの考えのもとに創設された。その制度を実効性あるものとするため、司法修習生に兼業・兼職の禁止などの修習専念義務を課し、労働の自由(勤労の権利(憲法27条1項))を剥奪することの当然の代償措置として給費制を採用したものである。その意味で給費制は国の義務であり、給費制を廃止して貸与制に移行することは憲法に違反するというべきである。このような本質的な制度趣旨について十分な議論を行わず、単に経済的な側面のみから結論を導いたという面でも本取りまとめは、誠に不十分といわざるを得ないものである。

先の衆議院法務委員会における裁判所法の一部を改正する法律の趣旨説明において、「昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう、法曹養成制度に対する財政的支援のあり方について見直しをおこなうことが緊急な課題」とされているにもかかわらず、本取りまとめは、給費制から貸与制という司法修習生に対する負担増のみを先行させ、財政的支援についての具体的な対策を一切取りまとめていない。現在、法科大学院の入学志願者は急激に減少し、その質の低下も指摘される等、現行の法曹養成制度は危機的状況にある。法曹志望者減少の大きな要因である法科大学院制度や司法試験制度の問題点にメスを入れないまま司法修習について給費制を廃止して貸与制を実施することは、法曹志望者をますます減少させ、経済的理由から法曹になることを断念する者を広範に生じさせることは明らかであり、上記裁判所法改正の趣旨に反することは明白である。

よって、当会は引き続き給費制の存続を訴えるとともに、少なくとも法曹養成制度全体の議論が結論を見るまでの間は貸与制を実施しないよう法改正を求めるものである。

以上

2011(平成23)年9月16日
埼玉弁護士会会長  松本 輝夫

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