2012.02.14

原子力損害賠償紛争解決センターの和解案に対する東京電力株式会社の回答に関する会長声明

  1. 平成24年1月26日、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)第1号事件について、昨年12月27日にセンターの仲介委員が示していた和解案(以下「本件和解案」という。)に対して、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は、和解案をそのままは受け入れず、中間指針で目安として示された金額を超える慰謝料の増額及び仮払い補償金を本件和解時に清算しないとする点を拒絶し、さらにはセンターがあえて設定しなかった清算条項の明記を求める回答を行った。
    東京電力の上記回答は、本件和解案の重要部分を拒絶したものであり、センターを利用した和解仲介手続の存在意義を没却させかねない、重大な問題を含むものである。
  2. 東京電力は、原子力損害賠償支援機構と共同で昨年10月28日「特別事業計画」を申請し、後日政府はこれを認定しているが、本計画は東京電力への政府資金援助の条件とされ、東京電力は本計画に盛り込まれた諸事項を遵守し、確実に実施する義務を負っている。東京電力は本計画で掲げた「5つのお約束」の中で、「被害者の方々の立場に立ち、紛争処理の迅速化に積極的に貢献するため、原子力損害賠償紛争審査会において提示される和解案については、東京電力として、これを尊重する」ことを明記している。
    それにもかかわらず、本件和解案の重要部分を東京電力が拒絶したことは、政府及び国民に対する約束を守っていないといわざるを得ない。
  3. また、東京電力が拒絶した各事項についても、東京電力の対応は、以下のとおり問題があるものである。
    1. 慰謝料について
      原子力損害賠償紛争審査会が定めた中間指針を超えて提示された慰謝料について、中間指針の基準を超えていることを理由にその支払を拒絶しているが、中間指針は、「本件事故による原子力損害の当面の全体像を示すものである。この中間指針で示した損害の範囲に関する考え方が、今後、被害者と東京電力株式会社との間における円滑な話し合いと合意形成に寄与することが望まれるとともに、中間指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要である。東京電力株式会社に対しては、中間指針で明記された損害についてはもちろん、明記されなかった原子力損害も含め、多数の被害者への賠償が可能となるような体制を早急に整えたうえで、迅速、公平かつ適正な賠償を行うことを期待する。」とし、さらに、慰謝料の「金額はあくまでも目安であるから、具体的な賠償に当たって柔軟な対応を妨げるものではない。」あるいは「その他の本件事故による精神的苦痛についても、個別の事情によっては賠償の対象と認められ得る。」と明記しているのである。中間指針は、個々の事情による慰謝料の加算を認めていると考えられる。
    2. 仮払い補償金の早期清算の主張について
      本件和解案は、仮払い補償金は最終的な損害が確定するまで清算しないものとした。これは、仮払い補償金が原発事故に伴い避難を余儀なくされている人々に対する避難による損害の充当を目的として支払われたものであり、原発事故による避難が現に継続し、損害が未確定の現段階においては、清算すべき筋合いではないからである。また、実質的にも、現段階で直ちに仮払い補償金の清算を求めることは、被害者が、今なお避難所等で辛酸を極める生活を送ることを強いられていることからすれば、被害者を再び困窮におとしめることになり極めて不当である。
    3. 清算条項について
      また、東京電力は本件和解案に清算条項を入れることを求めている。
      しかし、被害者が未だ避難所や仮設住宅、借り上げ住宅において極めて不安定な生活をしていることや、被害者が自由に自宅を訪ねることすらできず、自己の損害が未だ確定できない段階にあることに鑑みると、和解案に清算条項を入れるということは、一部の損害賠償をもって賠償を打ち切ることを意味し、適正な被害の回復ができなくなるものであり、到底許されない。
  4. 以上のとおり、当会は、東京電力に対し、本件和解案が本件被害者救済のための最低限の内容であることを自覚して、即時本件和解案を受諾することを求めるとともに、仲介委員が示す今後の和解案を尊重して、すべての被害者に迅速かつ適正な損害の賠償をするよう強く求める。また、政府関係機関においても、すべて被害者の損害を迅速かつ適正に賠償するよう東京電力への指導、監督を徹底することを求める。

以上

2012年(平成24年)2月14日
埼玉弁護士会会長  松本 輝夫

戻る