2012.08.09

死刑執行に対する会長声明

本年8月3日,東京及び大阪の各拘置所において合わせて2人の死刑確定者に対する死刑が執行された。本年では3月に続く二度目の執行であり,改めて,厳重に抗議する。
そもそも,1989年に「死刑廃止条約」が国連で採択された後,今日では死刑制度の廃止こそが国際的動向となっている。実際,1990年当時には死刑制度廃止国(事実上の廃止を含む)は80か国であったが,近時,その数は141か国にまで及んでいるのである。
また,この間,国連の人権関係諸委員会は,日本政府に対し,死刑廃止に向けての措置を採るべきことや速やかに死刑執行を停止すべき旨を勧告してきている。近時においては,2008年5月,国連人権理事会から死刑執行の継続に対する懸念が多数表明されたうえ,改めて死刑執行停止の勧告がなされた。また,同年10月には,国連(自由権)規約委員会より,日本の人権状況に関する第5回審査総括所見において「世論調査の結果にかかわりなく死刑廃止を前向きに検討し,死刑廃止が望ましいことを国民に伝えるべき」旨を勧告されてもいる。
しかるに,日本政府は,このような国連人権諸機関からの幾度の勧告を受けてもなお,それらを全く無視するかのように死刑執行を継続しているのである。このような日本政府の姿勢は,極めて異常といわざるを得ず,日本国憲法の基本原理である人権尊重主義や憲法98条2項の「国際協調主義」の精神に悖るものとして強い非難が妥当する。
また,当会は,これまで何度となく,日本政府(法務省)に対し,死刑制度の実態等に関する十分な情報を広く開示するとともに,これに基づいた制度存廃についての全社会的議論が尽くされるまでは死刑を執行しないよう強く求め続けてきた。しかるに,政府の死刑制度に関する情報開示は,現在もなお,執行後に被執行者名を公表する程度にとどまり,死刑確定者の拘禁実態や執行の態様等に関する情報は殆ど開示せず,この点も重大な問題である。
以上から,当会は,改めて政府(法務省)に対し,死刑制度が個人の生命を奪う究極の人権侵害を制度としたものであることを厳粛に受け止め,速やかに,死刑制度に関する国際的潮流や死刑執行の実態を含めた十分な情報を広く開示して,死刑制度の廃止に向けた全社会的議論を尽くすことと,その間においては,これ以上の死刑執行は絶対に行うことのないよう強く求める。

以上

2012年(平成24年)8月9日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

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