2012.10.11

死刑執行に対する会長声明

本年9月27日,仙台拘置所及び福岡拘置所において各1名の死刑確定者に対する死刑が執行された。死刑制度に関する全社会的議論が尽くされたとは到底いえない状況のもと,本年においては3月29日(3名)及び同年8月3日(2名)に続く執行であり厳重に抗議する。
当会は,従前より,政府に対し,死刑制度全般に関する情報を広く市民・国民に公開して死刑制度の存廃に関する議論が尽くされるまで死刑の執行を停止する事を求めてきた。そして,本年8月の死刑執行に際しては,一歩進めて,死刑制度の廃止に向けた全社会的議論を尽くすよう求めたところである。しかるに,報道によれば,滝実法務大臣(当時)は,上記執行の翌日の記者会見において,政府が主導して死刑制度廃止に向けた動きをすることはないとの考えを示したということである。この報道内容が事実とすれば,今回の執行とともに到底容認し得ない事態といわねばならない。
周知のとおり,今日においては,死刑制度の廃止こそがまぎれもない国際的趨勢である。実際,本年6月現在,死刑廃止国は141か国(事実上の廃止国36か国を含む)にまで及んでいるのに対し,死刑存置は57か国に過ぎない。
また,この間,日本政府は,国連の人権関係諸機関から,再三にわたり,死刑廃止に向けての措置を採るべきことや速やかに死刑執行を停止すべき旨の勧告を受けている。とりわけ,死刑が生命という根源的な人権を国家が剥奪する制度の問題であることからすると,2008年10月の国連(自由権)規約委員会総括所見における「世論調査の結果にかかわらず,締約国は,死刑廃止を前向きに検討し,必要に応じて国民に対し廃止が望ましいことを知らせるべき」旨の勧告については,特段の留意が必要なはずである。
もともと,刑事裁判というものには誤判・冤罪の危険性が常に孕まれているといえる。「免田事件」をはじめとして1980年代に4件も相次いだ死刑確定者に対する再審無罪確定は,このことを示して余りある。加えて,1990年発生の「足利事件」の再審無罪確定からは,今なお,死刑や無期懲役刑の求刑が予想される重大事件の刑事裁判においても冤罪の危険性のあることが明らかとなったといえる。
さらに,裁判員裁判の施行に伴い,裁判員として参加することが予定されている国民一般にとって死刑判断が迫られるという場面もあり得,その精神的負担の問題も含めて死刑制度に関する国民的関心は高まっている状況にある。
よって,当会は,改めて,政府及び国会に対し,死刑制度の廃止に向けた全社会的議論が尽くされ得る施策の策定を強く求めるとともに,法務大臣に対し,その間の死刑執行は絶対に行わないよう申し入れる。

以上

2012年(平成24年)10月11日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

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