2013.03.13

朝鮮学校への補助金支給を埼玉県に求める会長声明

  1. 埼玉県は、県内にある私立学校に対し、学校運営のための諸経費等に関する補助金(以下「補助金」という)を支給し、1982年以降、埼玉朝鮮学園もこの支給対象としてきた。ところが、同学園に対する補助金につき県は、2010年度分から2012年度分について予算計上しながらその支給を凍結し、さらに2013年度分については予算計上さえ見送るとしている。
  2. 県は、当初この補助金支給凍結の理由につき、同学園の財政問題を挙げ、その経営の健全性が確認できるまで支給を見送るとしていた。しかし、この問題はすでに昨年1月には法的に解決されている。
    ところがさらに県は、同学園に対し、上記財政問題における債務返済の原資につき明らかにすることや、同学園における授業の抜き打ち調査を要求した。しかし、これらの点についても同学園は、昨年3月末までに上記原資に関する基本的考え方を示すとともに、歴史教育などの授業内容に対する実地調査を受け入れるなど誠実に対応してきたことが窺がわれる。
    しかるに県は、同学園に対する補助金の支給留保を継続し、さらに2013年度分については、「北朝鮮」政府による「拉致問題」や核実験などを理由に予算計上さえ見送るとしているのである。
  3. しかし、そもそも朝鮮学校で学ぶ個々の生徒にも教育を受ける権利が保障され(憲法26条)、この権利享受の点で差別的取り扱いをすることは許されない (憲法14条)。そして、拉致問題や核実験自体は極めて政治的・外交的事由であって、本来的に朝鮮学校で学ぶ生徒がその帰趨を左右し得るような次元のものでは全くない。これら事由が補助金交付の点で他の県内私立学校と異なる取り扱いをする合理的理由となり得ないことは論を俟たない。
    加えて、子どもの権利に関する条約(子どもの権利条約)が締約国に対し、その管轄内にあるすべての子どもに教育への権利を保障し(同条約2条1項、28条1項)、特に、種々の形態の中等教育の発展を奨励し、その利用の機会が得られるよう必要な場合における財政的援助の提供のような適当な措置をとることを求め(同条項b)、且つ教育が指向すべきなのは文化的アイデンティティや居住国及び出身国の国民的価値の尊重と定めている(同条約29条1項c)ことからしても、県の対応は問題である。
    したがって、県が同学園に対し補助金の支給を留保しあるいは予算計上を見送ることは、憲法26条及び14条に違背するとともに子どもの権利条約28条及び29条の趣旨に悖るといわねばならない。
  4. よって、当会は、埼玉県に対し、埼玉朝鮮学園への補助金支給を2010年度に遡って行うよう求める。

以 上

2013(平成25)年3月13日
埼玉弁護士会会長  田島 義久

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