2013.05.08

個人保証の原則廃止を求める意見書

個人保証が保証人の経済的破綻や自殺の要因になっていることに鑑み,法務省の法制審議会民法(債権関係)部会において検討されている民法改正に当たり,保証制度を以下のとおり抜本的に改正するよう求める。

第1 意見の趣旨

個人保証を原則として廃止すること。
例外として個人保証が許容される場合であっても,次に指摘する保証人保護制度を設けること。

ア 現行民法に定める貸金等根保証契約における規律(民法465条の2乃至465条の5)を個人が保証人となる場合の全ての根保証契約に及ぼすこと。
イ 債権者は,保証契約を締結するときは,保証人となろうとする者に対する説明義務や債権者の支払能力に関する情報提供義務を負い,債権者がその義務違反をした場合には,保証人は保証契約を取り消せること。 
ウ 債権者は,保証契約締結後,保証人に対し,主たる債務者の遅延情報を通知する義務を負うこと。
エ 過大な保証を禁止する規定や保証債務の責任を減免する規定を設けること

第2 意見の理由

1 保証被害の実態

個人保証は,親類や知人から保証人となることを依頼された場合情誼から心理的に拒絶できないことが多い。また,保証契約は契約時に財産拠出等の負担はなく,将来の保証債務の具体的内容が不確実であり,予測も困難である。そのため,将来の危険性を過小評価して軽率に契約をする傾向にあるが,特に個人保証においては,主債務者の履行能力やリスクを把握する知識・経験・能力が不十分であるなど,極めて危険な取引類型であるのに保証人が対価を取得することは稀であり,対価的均衡が欠如している。
このような個人保証債務が具体化する際,往々にして保証人は想定を超える債務負担を強いられ,経済的破綻を招くことが少なくない。日本弁護士連合会消費者問題対策委員会編「2011年破産事件及び個人再生事件記録調査」によれば,破産においては約19%,個人の民事再生においては約9%が保証等を原因としている。加えて,内閣府の「平成24年版自殺対策白書」によると,2011(平成23)年の自殺者総数は3万651人であり,その内,経済・生活問題を原因とする自殺が28.4%を占めている。破産及び個人再生手続の原因に占める保証等の割合からすれば,経済・生活問題を原因とする自殺のうち,相当程度が保証を理由とするものと推測できる。

2  保証制度抜本的改正の必要性および許容性

上記のように,保証制度が保証人の経済的破綻や自殺といった重大な不利益をもたらしていることに加えて,裁判実務においても,真意ではなく,又は過大な保証契約を締結した保証人保護については,錯誤論や信義則・公序良俗違反,権利濫用などの一般原則によっては,十分な保護が図られているとは言い難い状況である。
他方で,2006(平成18)年以降,各地の信用保証協会は,保証申込のあった案件について,原則として,経営者本人以外の第三者を保証人として求めていない運用であり,金融庁も2011(平成23)年8月14日付けで「主要行向けの総合的な監督指針」及び「中小・地域金融機関向けの監督方針」を改正し,「経営者以外の第三者個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立」を明記し,民間金融機関に対しても,同原則に沿った対応を求めている。これにより,一部の金融実務においては,経営者保証を除き,個人保証を不要とする実務慣行が生じつつあるが,これによって円滑な金融が妨げられるなどの実害も見られていない。

3 具体的施策について

(1)個人保証の原則禁止
上記のとおり,保証人に甚大な被害を生じさせる蓋然性のある保証契約の被害をなくすためには,個人保証を原則禁止とすべきである。なお、中小企業が金融機関から融資が受けられなくなるという弊害などから主債務者が会社である場合の経営者保証などは,個人保証の例外とすることも考えられるが,本来は、個人保証がなくても、融資がなされるような金融システムの構築に力を注ぐべきであるし、保証人の甚大な被害をなくすとの観点からは例外は厳格に限定的なものとした上で,将来的な見直しを引き続き検討するべきである。

(2)保証人保護制度の導入
例外として個人保証が許容される場合,現行民法では,貸金等根保証契約以外の根保証契約に関しては極度額や保証期間の定めに関する規律がなく,保証人が予期できない過大な保証債務の履行を請求される危険性が否定できない。根保証の危険性は貸金等根保証契約に限られず,賃貸借契約等の保証の場合にも過大な保証債務の履行を請求される危険性は現実の事案において見られるところである。そこで,自然人が保証人となる根保証契約全般につき,現行民法の貸金等根保証契約に関する規制を広く及ぼすべきである。
また,保証制度は,その情誼性・無償性・不確実性などからトラブルが多い契約類型であり,主債務者の資力や収入,負債などを誤信している保証人が多く見られる。そのため,例外として個人保証が許容される場合であっても,保証契約締結に際して,債権者は保証人となる者に対して,説明義務及び情報提供義務を負うものとし,その実効性確保の観点から義務違反の効果として保証人に取消権を認めるべきである。
さらに,主債務者が履行遅滞になった場合に,保証人に主債務の遅滞に対する対応を取る機会を確保するために,債権者に対して,保証人への主債務者の遅滞情報の通知や催告の義務を課し,これを怠った債権者は,保証人に対し,遅延損害金や期限の利益喪失を主張できないものとすべきである。
さらには,保証人が主債務者の破綻により過大な債務負担を強いられ,自己破産の申立や自殺に追い込まれることを回避するため,過大保証を禁ずる規律及び身元保証法5条を参考とした責任減免規定を設けるべきである。

以 上

2013年(平成25年)5月8日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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