2013.11.13

憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認 並びに国防軍の創設に反対する声明

  1. 政府は,憲法が禁止している集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更によって容認しようという方針を表明している。また,政府は,集団的自衛権の行使を規定する国家安全保障基本法を国会に提出すべく準備を進めていると報道されている。さらに,自由民主党は,2012年4月27日,「日本国憲法改正草案」を発表し,戦力不保持と交戦権の否定を定める憲法第9条2項を全面削除したうえ,国防軍を創設することを提案している。
  2. 日本国憲法は,わが国が15年にわたるアジア太平洋戦争において,アジアの民衆2000万人以上,日本国民310万人以上を犠牲にした歴史的事実を踏まえ,「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」(前文),戦争のみならず武力の行使又は武力による威嚇をも放棄し(第9条第1項),さらには,陸海空軍その他の戦力を保持せず,国の交戦権を否認する(同第2項)という徹底した非武装平和主義を規定した。こうした憲法の規定は,世界に誇りうる先駆的意義と,軍事力によらずに国際平和を構築すべき現代的意義を有するものである。
    従来の政府の憲法解釈は,我が国が行使しうる自衛権は,自国への急迫不正の侵害があった場合に実力をもって防衛すること(個別的自衛権)に限定され,自衛隊の装備及び活動もこれに必要な最小限度の範囲内で許容されるに過ぎないとしてきた。そして,政府は,1981年5月29日付けの政府答弁書において,集団的自衛権行使は我が国を防衛するための必要最小限度の範囲を超えるものであり憲法上許されないとの見解を示し,その後一貫してこの政府解釈を維持してきた。
  3. ところが,政府は,閣議決定により憲法解釈を変更し集団的自衛権の行使を容認しようとしており,憲法第9条の非武装平和主義に真っ向から反するものであり,到底許されない。
    すなわち,憲法が禁止する集団的自衛権の行使を容認することは,憲法第9条の非武装平和主義を否定することであり,憲法第9条の解釈の限界を超える実質的な憲法改正に等しい行為である。こうした事項を政府による解釈変更や憲法よりも下位規範である国会の法律により変更することは,基本的人権の保障のために憲法によって国家権力を拘束するという立憲主義に反するものであり,憲法の最高法規性(第98条)を踏みにじるものである。
    ところで,国連憲章51条に定める「集団的自衛権」の行使が認められる要件について,国際司法裁判所は,ニカラグア事件判決において,「武力攻撃の直接の犠牲国による,武力攻撃を受けた事実の宣言及び他国への援助の要請が必要である」との判断を示している。ところが,現実の国際政治の中では,「集団的自衛権」の名の下に行使要件を満たさないまま相手国の国内紛争への軍事介入が繰り返されてきた。例えば,1965年のアメリカによるベトナム戦争,1968年の旧ソ連によるチェコスロバキア侵攻,1979年の旧ソ連によるアフガニスタン侵攻,1981年の米国によるニカラグア軍事介入,2001年のアメリカによるアフガニスタン戦争,2003年のアメリカによるイラク戦争など枚挙にいとまがない。また,これらの軍事行動に複数の関連国が「集団的自衛権」の行使であるとして参戦してきた。
    このように「集団的自衛権」の概念が国際法を無視して濫用されてきた歴史に照らせば,その行使容認を認めることは,日本がこのような軍事介入や戦争に加担することを認めることにほかならない。
  4. さらに,自由民主党の「日本国憲法改正草案」が提案する,憲法第9条2項を削除して「国防軍」を創設することは,個別的自衛権の範囲を超え,海外における軍事力の行使や集団的自衛権の行使など際限なくその活動が拡大する危険性がある。かかる「国防軍」の創設は,非武装平和主義という憲法の基本原理を根底から覆すものであり,到底許されない。
  5. 当会は,2008年5月28日,「日本国憲法の平和主義を堅持することを求める決議」を発表したところであるが,今般の状況において,集団的自衛権の行使を容認する解釈変更や法律の提案並びに国防軍を創設する提案は,日本国憲法の立憲主義及び非武装平和主義を根底から覆すものであり,当会は改めてこれに強く反対するものである。

以 上

2013年(平成25年)11月13日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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