2013.12.20

生活保護法の再度の改正及び生活困窮者の生活を守る運用を求める会長声明

2013年(平成25年)12月6日,「生活保護法の一部を改正する法律」(以下,「改正法」という。)が成立した。この改正法は国民の生存権を保障する憲法25条を空文化させるものであり,反対意見が多数あるにもかかわらず拙速な改正がなされたことは極めて遺憾である。当会は,改正法中,下記条項については速やかに削除する再改正を行うとともに,同法の施行については生活困窮者の生存権を脅かさない運用をするよう,市区町村に周知徹底することを求める。

  1. 改正法24条1項及び2項は,生活保護の申請の際に申請書及び要保護者の資産並びに収入状況に関する資料の提出を求める規定であるが,削除されるべきである。
    改正前の生活保護法では申請の様式を定めておらず,生活保護の申請は口頭の意思表示のみによって成立することが明らかであった。それにもかかわらず各市区町村の福祉事務所等,生活保護の申請を受け付けるべき担当窓口(以下,「申請窓口」という。)では,職員が生活保護を申請しようとする者に申請書を交付しない対応や添付書類に不備があるなどという理由によって事実上申請を断念させ又は申請者に申請を撤回させるという「水際作戦」が横行していた。このような取扱いは明らかに違法であるが(埼玉県三郷生活保護訴訟,さいたま地方裁判所平成25年2月20日判決など),今回の法改正は,このような申請窓口の水際作戦が問題となっている中で行われ,「生活保護申請厳格化」等と報道されている。この点,政府答弁によれば,申請書の交付がない場合は口頭の申請を可とする旨述べられており,改正後も口頭申請が排除されないことが確認されているが,申請窓口ではこの度の法改正によって水際作戦を採っている現状が追認されたと誤解し,本来排除されていない口頭による申請を拒否するなど,かえって水際作戦を推し進めるおそれが強い。
  2. 改正法24条8項,28条及び29条は,市区町村が扶養義務者等への照会や通知等をする権限を定めるが,これらの条項は削除されるべきである
    扶養照会をされることは,生活保護を申請しようとする者にとって,連絡を取りたくない親族等に居所が露見したり経済状況が露見して親族や職場関係者の偏見や社会的非難を受けたりするのではないかと心配させ,申請を躊躇させることとなる。さらに,申請窓口が申請者に扶養照会をかけてよいかと選択を迫ることによって,申請者に申請そのものを断念させる口実として利用されるおそれが強い。その結果,生活困窮者が生活保護を申請できず,実質的に申請権が侵害されることになる。
  3. 関係機関は,法改正後においても、水際作戦の違法性を周知し,生活困窮者の生存権を侵害するような生活保護制度の運用をしないように徹底すべきである。
    本改正前でさえ,生活困窮者は社会的非難等をおそれ又は申請窓口が水際作戦を採ることにより,生活保護を申請することを妨げられていた。当会が,本年10月23日に参加,実施した日弁連主催の生活保護申請全国ホットダイヤルにおいては,当会で受け付けた相談だけでも1日で145件にのぼった(他都道府県からのものを含む)。生活に困窮しているが社会的偏見や親戚からの偏見が怖くて生活保護の申請ができないという事案や,申請窓口の水際作戦によって半年以上にわたって申請できていないという事案もあった。このような現状は直ちに改められる必要がある。

以上のとおり,当会は,水際作戦が横行している現状を助長若しくは追認する改正法の上記条項を削除するすみやかな再改正を求めるとともに,生活保護申請は口頭でも行えること等を周知徹底し,水際作戦が採られている現状を是正し,生活困窮者の生活保護申請権が侵害されることのないよう,強く求めるものである。

以 上

2013年(平成25年)12月20日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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