2018.01.10

死刑執行に抗議する会長声明

  1. 2017年12月19日,東京拘置所において,上川陽子法務大臣の命により,死刑確定者2名に対する刑の執行がなされた。
    第2次安倍内閣発足以降,死刑が執行されたのは12回目で,合わせて21名になる。
  2. 両名とも弁護人が付いて再審を請求していたにもかかわらず,今回の執行により,その道を閉ざされたものであり,再審請求段階,刑の執行段階いずれにおいても保障されるべき弁護権,防御権を侵害するという観点から問題がある(2011年10月7日 第54回人権擁護大会「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」)。
    また,前記両名のうち1名は,犯行当時少年であった。成育した環境の影響が非常に強い少年の犯罪について,その少年に全ての責任を負わせ死刑とすることは,刑事司法の在り方として公正であるのかという点も問われるべきである(同宣言)。
  3. 死刑は,国家が人命を奪う究極の刑罰であり,基本的人権の核をなす生命に対する権利と真っ向から衝突するものである。しかも,死刑確定後の再審により無罪が確定した過去4件の事件(免田,財田川,松山,島田事件)や近時再審開始決定が行われた袴田事件から明らかとなっているように,誤判や冤罪の危険が不可避である刑事司法制度の下では,死刑は取り返しのつかない結果を生じさせるものである。このように,死刑が究極の人権侵害を内包する刑罰である以上,基本的人権の尊重という憲法の最高価値を実現する観点からは,死刑制度の廃止に向け,全社会的な議論を尽くすことが求められている。
  4. 世界各国の状況を見ると,法律上及び事実上,死刑を廃止している国は,2016年12月末現在,141カ国に上り,世界の国々の3分の2以上を占めており,死刑制度を残し,実際に死刑を執行している国は世界的にも少数となっている。国連の自由権規約委員会(1993年,1998年,2008年,2014年),拷問禁止委員会(2007年,2013年)及び人権理事会(2008年,2012年)は,死刑の執行を繰り返している日本に対し,死刑執行を停止し,死刑廃止を前向きに検討するべきであるとする勧告を出し続けている。
  5. 日本弁護士連合会は,2016年10月7日,第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」(以下,「2016年宣言」という。)を採択し,日本政府に対し,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すことなどを求め,2016年宣言採択の後,これを実現するため死刑廃止等実現本部を設置した。当会も,死刑廃止検討プロジェクトチームを設置し,2016年宣言後は,死刑廃止実現プロジェクトチームを設置するとともに,市民集会を開催するなどして死刑制度についての全社会的議論を呼びかけてきた。
  6. しかしながら,日本政府は,このような状況を顧みず,死刑を執行し続けている。それだけでなく,日本政府は,死刑に関する情報を未だに十分に公開しない態度に終始するなどして,全社会的議論の土壌すら与えようとしない。
    このような状況の中で行われた今回の死刑執行は,人権軽視の批判を免れず,厳しく批判されなければならない。
  7. 以上から,当会は,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,改めて日本政府に対し,死刑廃止の実現に向けた全社会的議論を行うこと,及び,これが尽くされるまでの間,全ての死刑執行を停止することを強く求める。

以上

2018(平成30)年1月10日
埼玉弁護士会会長  山下 茂

戻る