2018.06.19

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

  1. 中央最低賃金審議会は,本年7月頃,厚生労働大臣に対し,2018年度地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行なう予定である。例年,当該答申に基づき各地の地域別最低賃金審議会において地域別最低賃金の改定額が答申され,これを受けて都道府県労働局長が改定額を決定している。
    昨年は,7月27日に中央最低賃金審議会が全国加重平均25円の引き上げの答申を行い(埼玉県の目安はAランクの26円),これに基づき埼玉地方最低賃金審議会は同年8月3日に引き上げ額を26円とする答申を行った。そして当該答申を受けて,埼玉労働局長は同年9月1日に埼玉県最低賃金額を871円(引上額26円)と改定する決定をした。なお,全国平均は848円にとどまっている。
    本年度についても,従来と同様の時期に地域別最低賃金改定の目安の答申が行なわれる見込みであるところ,当会は,本年の最低賃金改定額の決定にあたり,中央最低賃金審議会,埼玉地方最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し,最低賃金額を1000円とする答申・決定をするよう求める。
  2. これまでも当会は,最低賃金額1000円の実現に向けて,最低賃金の大幅な引き上げを求めてきたところである(2016年10月12日付け「最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明」)。最低賃金額が年々引き上げられていることについて一定の評価はできるものの,現在の最低賃金額は,最低賃金法が定める「労働者の生活の安定」にも「労働力の質的向上」にも繋がるものではなく未だ不十分と言わざるを得ない。
    すなわち,賃金収入が最低生活費以下の労働者,いわゆるワーキングプアの基準は年収約200万円(時給換算で約1000円)とされるが,現在の全国平均時給848円という水準では,1日8時間,週40時間,年間52週働いたとしても,月収約14万7000円,年収約177万円にしかならない。また,全国平均を上回る埼玉県(全国4位)の水準である時給871円で計算したとしても,年収約181万円(月収約15万円)にしかならず,上記年収約200万円にさえ遠く及ばないのが実情である。
    最低賃金周辺の賃金水準で働く労働者層の中心は非正規雇用である。非正規労働者は,全雇用労働者の4割にまで増加しており,また,家計の補助的立場ではなく,自らの収入で家計を維持しなければならない非正規労働者も大きく増加している。
    実際に2015年の貧困率は15.6%であり,我が国の貧困と格差の拡大は深刻な事態となっている。
    このような現状において,1000円を大きく下回る最低賃金額を維持することは,新たなワーキングプアを生むだけでなく,現在貧困状態にある労働者が貧困状態からの脱出を困難にする要因ともなっている。深刻化している貧困と格差の拡大の問題を解決するためにも,最低賃金の大幅な底上げが早急に実現されなければならない。
  3. 先進諸外国の最低賃金と比較しても日本の最低賃金は未だ低水準のまま推移している。
    先進諸外国の最低賃金は,フランスは9.88ユーロ(約1292円),イギリスは7.83ポンド(25歳以上。約1165円),ドイツは8.84ユーロ(約1157円)であり,日本円に換算するといずれも1000円を優に超えて引き上げられている(※円換算は,2018年5月の為替レート)。
    アメリカではニューヨーク州やカリフォルニア州が15ドルへの引き上げを決定したのをはじめ,全米各地の自治体で最低賃金をさらに大幅に引き上げる動きが広がっている。
    そのような国際的な動きの中,未だ1000円にも達しない日本の最低賃金は遅れをとっていると言わざるを得ない。
  4. 政府は,2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において,2020年までに「全国平均1000円」にするという目標を明記し,その後2015年11月に最低賃金を毎年3%程度引上げ,全国加重平均が1000円程度となることを目指すとの方針を示したが,方針どおり毎年3%ずつ引き上げたとすると1000円に達するのは2023年となってしまう。
    先に述べた格差拡大,貧困問題の深刻さに鑑みれば,もはや一刻の猶予も許されるべきではない。
    最低賃金を時給1000円に引き上げたとしても,それだけで直ちに「労働者の生活の安定」を保障し,貧困問題を解決できるものではない以上,少なくとも最低賃金額1000円への引上げは直ちに実現されるべきである。
  5. 以上より当会は,本年の最低賃金改定額の決定にあたり,最低賃金制度の趣旨及び前記閣議決定の方針に則り,中央最低賃金審議会,埼玉最低賃金審議会及び埼玉労働局長に対し,最低賃金額を1000円とする答申・決定をするよう求める。

2018(平成30)年6月19日
埼玉弁護士会会長 島田浩孝

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