2018.06.19

商品預託取引の被害防止に関する意見書

  1. 意見の趣旨
    商品預託商法の被害を効果的に防止するため、事前登録制、帳簿等の監査、主務省の破産申立権等の行政権限を導入すべきである。これを実現するため、金融商品取引法(以下「金商法」という。)を改正し、いわゆる「集団投資スキーム持分※1」(同法2条2項5号)における「金銭に類するもの」の適用対象として内閣府令が指定する物品に、特定商品預託取引法(以下、「商品預託法」という。)の政令指定商品(同法2条1項、政令1条)に当たる物品を追加指定することにより、金商法を適用させるべきである。
  2. 意見の理由
    1. 大規模商品預託商法の被害実態
      • 商品預託商法被害に関するこれまでの経緯
        商品預託法は、豊田商事株式会社による現物まがい商法事件(昭和57年~60年破綻、被害者約29,000人、約2000億円)の反省から、商品預託取引による被害をより早期に防止・救済するため、昭和61年に制定された。同法は、政令指定商品※2を、3か月以上の期間にわたり預託を受け、財産情報利益を供与することを約する取引(商品預託取引)を規制対象とし、書面交付義務、クーリング・オフ、勧誘行為規制、中途解約権、業務・財務書類備付開示義務等を定めている。
        しかし、同法制定以降も、以下の通り、被害規模の大きな事件に限っても、預託商法による被害は繰り返されている。
        • 和牛預託商法(平成9年、千紫牧場、ジェイファーム等10数社破綻)
        • 八葉物流事件(平成11年~13年、被害者約40,000人、約500億円)
        • ふるさと牧場事件(平成19年破綻、被害者約5000人、約200億円)
        • 安愚楽牧場事件(平成9年~平成23年、被害者約73,000人、約4200億円)
        • ジャパンライフ事件(平成29年3月破産手続開始決定)
      • 大規模被害に至る要因
        預託商法被害が大規模事件に発展しやすい要因としては、次のようなものが考えられる。
        第1に、現行商品預託法は、取引業者の登録制がなく、参入規制が課されている。契約上、預託対象商品が存在しているものと表示されていれば、消費者にとっては少なくともその市場価値相当額の財産は確保されているという信頼感があり、消費者の判断がゆがめられやすい。
        第2に、個々の消費者においては、契約高全体に見合う商品が存在するのか、配当を継続できるだけの事業運営ができているか確認できず、帳簿閲覧制度(商品預託法6条)があっても、正しい記載がされているか検証することができない。現実に、ジャパンライフ事件においては、帳簿に虚偽記載がされており、仮に帳簿を閲覧したとしても、問題を把握することができなかった。
        第3に、個々の消費者としては、利益配当が続いている限り取引実態に関する疑問は生じず、むしろ取引実態を問題にして破綻させると自らの拠出金額の回収が困難となるため、現実に倒産するまで被害が顕在化しないという特質がある。ジャパンライフ事件でも、消費者庁が業務停止命令を4度繰り返したが、ジャパンライフが契約者説明会を開いて「マスコミが騒いでいるだけです。」と説明しているうちは、被害が顕在化しなかった。
    2. 法改正のあり方
      商品預託商法の被害実態に鑑みると、現行の商品預託法の規制内容では不十分であることが明らかであり、被害防止、早期救済の観点から、次のような規定が必要となる。
      • 商品預託取引業者の事前登録の義務付け
        商品預託法は、商品預託取引を行う業者に登録等の要件を要求しておらず、参入規制が行われていない。現状、一切の事前審査を経ないまま、どのような業者であっても、商品預託取引を行うことが可能な状態である。
        また、何らの登録も要しないまま商品預託取引が行われるため、行政庁が取引業者を監督する基礎的な情報がなく、預託商法被害が発生しても、適切に被害の実態を把握することができない。
        預託商法被害を防止するためには、事前に不適切な業者の参入を規制し、その後も登録業者の適切な監督を行うことが不可欠である。
      • 帳簿等の監査の義務付け
        商品預託法には、商品の保有量や収支状況等の業務・財務書類について、備置き・閲覧義務が規定され(同法6条)、同条を受けた内閣府令において、業務・財務書類の内容や財務書類については企業会計基準に従うことなどが規定されている。
        しかし、現行法においては、大規模な商品預託取引の取扱業者に対しても、会計監査人監査等は任意とした上で、監査の有無を表示する義務を課すにとどまり、取引の公正さを客観的に確認することができない。
        そこで、財務書類の記載事項の公正さを担保するために、一定規模以上の商品預託取引の取引業者に対しては、会計監査人監査等の監査の義務付けを導入する必要がある(なお、ジャパンライフ事件の業務停止命令に伴う指示処分において、消費者庁は公認会計士による外部監査を指示している。)。
      • 行政庁の監督権限の強化規定の導入
        商品預託法には、業務停止命令・措置命令が規定され(同法7条)、報告徴収・立入調査権も規定されている(同法10条)。
        しかし、上記の通り、預託商法被害については、事業活動中に消費者からの情報提供が少なく、預託商品等の保有、運用実態や利益配当見込み等の営業実態の把握は容易ではないという特質があり、しかも取引業者が登録されていないことから、行政庁が業務実態の基礎情報を有しておらず被害を適切に把握することが困難であるという事情がある。
        そこで、報告聴取・立入調査を実効化し、適切に業務停止命令等を行うために必要な範囲で、行政庁の調査・監督権限を強化する必要がある。
      • 行政庁の破産申立権限の導入
        行政庁が取引業者を適切に監督し、立入検査等によって営業実態を把握して業務停止命令を行ったとしても、ジャパンライフ事件がそうであったように悪質な業者は顧客を説得して取引を継続させることがあり、必ずしも被害は終息しない。
        そして、予納金等の手続き費用の負担等から、一部の契約者による債権者破産申立ては困難であり、現実的に破産申立が可能となるのは、多数の被害者が弁護士に相談するなどによって被害が顕在化してからとなり、その時点では個人の被害回復はもはや手遅れとなってしまっているのが実情である。
        そこで、速やかに被害の拡大防止及び回復を図るために、行政庁が報告徴収や立入調査等を通じて、当該取扱業者が実質的に破綻していることが判明したときには、行政庁による破産申立てが認められる必要がある。
    3. 金融商品取引法の改正による被害救済
      そもそも不特定多数人から資産を預かり運用して利益を提供する事業が、参入規制すらないまま許容されてきたことに、大規模被害を繰り返してきた根本原因があると言える。商品預託取引の基本的性格が投資商品であることを踏まえれば、金融商品取引法の適用対象として位置付けることが適切である。
      • 現行金融商品取引法の内容
        金商法においては、取引の内容がいわゆる「集団投資スキーム持分」(同法2条2項5号)に該当する場合に、当該スキームの取引業者は、第二種金融商品取引業の登録が必要とされている(同法2条8項7号ヘ・28条2項1号・29条)。
        そして、金商法は、集団投資スキーム持分について募集・売出し等の届け出をしようとする者等に対し、貸借対照表、損益計算書、その他の財務計算に関する書類について公認会計士、監査法人による監査証明を要求している(同法193条の2第1項)。
        また、金商法は、金融庁、証券取引等監視委員会等に、金融商品取引業者をはじめ広範な関係者に対する強い検査権限を与えており(同法194条の7等)、行政庁が不適切と判断した場合には、業務の停止等を超えて登録の取消し処分等を行うことができ、さらに、有価証券届出書等の虚偽記載等の金商法違反については刑事罰も科している(同法198条の6)。
        さらに、金融庁には、金融商品取引業者に対する破産申立の権限がある(金融機関等の更生手続きの特定等に関する法律490条1項)。金融商品取引業者が債務超過状態にあることが判明したときは、被害の拡大や財産の散逸を防ぐため、破産申立により清算手続に移行させる権限を行政庁に付与しているのである。
        以上から、商品預託取引の対象商品を、「集団投資スキーム持分」の適用対象商品に位置づけることにより、金融商品取引法の適用を受けることができれば、商品預託商法被害の防止、早期救済を図ることができる。
      • 商品預託取引と「集団投資スキーム持分」の共通性
        金商法が規定する「集団投資スキーム持分」とは、①契約形式を問わず、投資者が「金銭」または「金銭に類するもの」の出資または拠出をし、②当該金銭等を充てて事業を行い、③事業から生じる収益等の配当を受けるスキームをいう(同法2条2項5号)。そして、「金銭に類するもの」を拠出する集団投資スキーム持分として、政令では、有価証券や手形等を拠出する有価証券拠出型(施行令1条の3第1号ないし3号)とともに、出資を受けた金銭により購入した物品を拠出する現物出資型(購入物品拠出型)(同4号)があり、現状で現物出資型(購入物品拠出型)の適用対象物品としては、「競走馬」だけが指定されている(定義府令5条)。具体的には、現物出資型(購入物品拠出型)の集団投資スキーム持分は、複数の顧客が資金を出資して、事業者が顧客のために競走馬を購入し、これを飼育・調教して賞金等の収益を配分する取引事例が該当する。
        他方、商品預託取引とは、3か月以上の期間にわたり、政令で定める特定商品の預託を受けること及び当該預託に関し財産上の利益を供与すること等を約し、相手方がこれに応じて当該特定商品を預託することを約する契約であり(商品預託法2条1項)、契約者が特定商品を以前から保有していたか事業者から購入したか、さらに言えば対象商品が存在するか否かも問わず、そのような契約内容を「約する」ことにより成立する。もっとも、過去に行われてきた商品預託取引は、顧客が資金を拠出して商品を購入する契約と、当該商品を事業者に預託する契約をセットで締結するしくみであり、実際の資金の流れは、顧客が拠出した資金によって事業者が顧客のために商品(例えば和牛)を購入し、これを肥育して成牛を販売して収益を配分する取引事例が典型例である。
        そうであれば、上記各事例を比較すれば明らかなとおり、商品預託取引と、現物出資型(購入物品拠出型)の集団投資スキーム持分は、実質的な資金の流れが共通し、取引内容はほぼ同一のものといえる。
        また、現在は現物出資型(購入物品拠出型)の物品としては、「競走馬」だけが指定されているが、施行令1条の3第4号は、「当該権利を有する者の保護を確保することが必要と認められるものとして内閣府令で定めるものに限る」と規定しているのであり、預託商法被害が繰り返され、商品預託取引をした者の保護を確保することが必要と認められる現状においては、定義府令5条に、競走馬だけでなく、商品預託法の政令指定物品を追加指定すべきである。そして、このように解することが、金融関連の個別法の適用範囲を横断化し、同じような経済的機能を有し、同じように投資者保護を図る必要のある投資性の金融商品を隙間なく規制対象とすることを目指して改正された金商法の趣旨に適う。
      • 結論
        よって、商品預託商法被害を効果的に防止するため、金商法を改正し、「集団投資スキーム持分」(同法2条2項5号)における「金銭に類するもの」の適用対象として、商品預託法の政令指定商品(同法2条1項、政令1条)に当たる物品を追加指定することにより、金商法を適用させるべきである。
        なお、過去の商品預託商法は、政令指定商品以外の物品を取引対象として新たな被害を発生させてきた歴史があることから、集団投資スキーム持分の適用対象物品について府令による個別指定制を見直すことも検討が必要である。

以上

※1 「集団投資スキーム」とは、①投資者が金銭等を出資または拠出をし、②当該金銭を充てて事業を行い、③事業から生ずる収益の配当または当該出資対象事業に係る財産の分配を受けるスキームをいう。
※2 政令1条は、過去にトラブルが発生した物品として、貴金属、観賞用植物、飼育用動物、自動販売機、健康食品、家庭用治療機器等を指定している。

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