2018.07.11

死刑執行に抗議する会長声明

  1. 本年7月6日,上川陽子法務大臣の命により,東京拘置所等全国4か所の拘置所において,合わせて7人の死刑確定者に対する死刑の執行がなされた。この7人は,旧オウム真理教元幹部であり,「地下鉄サリン事件」などの一連の事の刑事裁判で死刑判決を受けていた人々である。
  2. 当会は,これまで再三にわたり,政府に対し,死刑制度に関する十分な情報を広く市民・国民に開示するとともに,死刑制度存廃についての全社会的議論が尽くされるまでは死刑を執行しないよう求め続けてきたもので,かかる情報公開や議論を経ないまま,今回の死刑を執行したことに対し改めて厳重に抗議する。
    特に,執行された中の6人は再審請求中であり,今回の執行により,その途を閉ざされることとなった。また,そのうちの1人は,刑事訴訟法479条1項の「心神喪失の状態」にあった可能性も否定できなかったのであるから,同人に対する執行については,適正手続の保障(憲法31条)の観点からも重大な疑問を呈さざるを得ない。
    1. そもそも,現に生きて存在する諸個人は多様で個性に充ち,憲法はそのような個人に人間社会の根源的価値をおく(憲法13条前段・個人の尊厳)のであるから,重大事件の加害者に限って存在することを認めない死刑は,この憲法の核心原理と相いれないのである。とりわけ,「生命・・・に対する国民の権利」(憲法13条後段)は,他の基本的人権享有の大前提であり,その剥奪はすべての権利・自由の剥奪を必然にもたらす。その意味で,国家が諸個人の生命権を剥奪する死刑という刑罰は,究極の人権侵害制度といわねばならない。
      そのような認識のもと,1989年の国連総会での死刑廃止条約採択以降,今日では死刑廃止は国際的潮流であり,死刑廃止国(事実上の廃止を含む)は2017年時点で142か国に及んでいる。
      他方で,この間日本政府は,国連規約人権委員会(1993年,1998年,2008年,2014年),国連拷問禁止委員会(2007年,2013年),そして,国連人権理事会(2008年,2012年,2017年)から,それぞれ,死刑執行を停止し,死刑廃止を前向きに検討すべきであるとの勧告などを受け続けていた。
    2. 日本弁護士連合会は,2016年10月7日開催の第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,日本政府に対し,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すことなどを求めた。そして,同採択の後,これを実現するため死刑廃止等実現本部を設置した。これに呼応して当会も,死刑廃止実現プロジェクトチームを設置して市民集会を開催するなどして,死刑廃止に向けた全社会的議論を呼びかけてきた。
      また,日弁連は,本年3月18日,上川法務大臣に対し,すべての死刑確定者に対する死刑執行の停止,特に再審請求中の死刑確定者及び心神喪失の疑いのある死刑確定者に対する執行を停止するよう要請した。さらに,先月6月18日には,政府に対し,心神喪失の状態に該当し,又はその疑いがある死刑確定者に対する執行を停止するよう勧告してもいた。
    3. しかしながら,日本政府は,上記のような国連諸機関や日弁連の勧告・要請を顧みることのないまま,今回,7名もの死刑確定者に対する執行をしたもので,それは,憲法の国際協調主義(98条2項)や刑訴法479条1項の精神・趣旨に違背する態度であり,厳しく批判されなければならない。
  3. 以上から,当会は,改めて,日本政府に対し,究極の人権侵害制度である死刑の廃止に向けた全社会的議論を主導すること,その間においてはすべての死刑執行を停止することを強く求める。

以上

2018(平成30)年7月11日
埼玉弁護士会会長  島 田 浩 孝

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