2016.01.19

消費者庁・消費者委員会・国民生活センターの地方移転に反対する意見書

2016年(平成28年)1月19日
埼玉弁護士会会長 石河 秀夫

現在、政府において検討されている、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき、政府関係機関の移転を検討している件に関し、以下のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

  1. 消費者庁が、特命担当大臣の下で政府全体の消費者保護政策を推進する司令塔機能を果たすとともに、消費者被害事故などの緊急事態に対処し、所管する法制度について迅速な企画・立案・実施を行う機能を果たすためには、担当大臣、各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、これに反するような地方移転には反対である。
  2. 消費者委員会が、政府の消費者行政全般の課題について関係省庁から資料提供や報告を求め、意見交換を通じた検証、評価、監視、提言機能を発揮するためには、消費者庁を含む関係各省庁と同一地域に所在することが不可欠であり、地方移転には反対である。
  3. 国民生活センターが、全国の消費生活相談情報の分析を踏まえて消費者保護関連法制度・制作の改善に向けた問題提起や情報提供を効果的に行うためには、消費者庁及び消費者委員会と密接に連携して分析及び情報交換を行うことが必須であり、また、消費生活センター・消費生活相談窓口支援のセンターオブセンターとしての機能を果たすためにも、地方移転には反対である。

第2 意見の理由

  1. はじめに
    政府は、 「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定し、政府関係機関の地方移転にかかる都道府県の提案を受けて、検討を進めている。その施策の中で、徳島県から消費者庁と国民生活センターを同県に移転することが提案され、現在、政府関係機関移転に関する有識者会議(以下、「有識者会議」という。)で審議されている。政府が検討している「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、政府関係機関や産業の東京一極集中を是正し地方の活性化を目指すものであり、基本的な方向性は評価できる。しかしながら、政府関係機関の地方移転により、当該機関の本来の機能が低下することになっては、本末転倒である。有識者会議においても、「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関(中央省庁そのものの移転と一体の提案を除く)に係る提案」、「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」は、移転の検討対象とはしないという方向性が示されている。
     以下のとおり、消費者庁、消費者委員会及び国民生活センターの地方移転は、それによる当該機関の本来の機能の低下が明らかであるから、なされるべきではない。
  2. 消費者庁の司令塔機能・消費者保護法の立案機能
    消費者庁は、わが国の従来の消費者保護行政が縦割り省庁によって不統一に行われてきたことに対し、消費者行政を一元化し安心安全な市場の確保を図るため、政府全体の消費者行政を推進する司令塔の役割を担う組織として、2009(平成21)年に創設された。
    消費者庁は、特定商取引法、消費者契約法、景品表示法、消費者安全法など専管・共管を含めて約30本の消費者保護関連法を所管しているほか、各省庁の消費者政策を集約して消費者基本計画を作成し毎年フォローアップを行う等、まさに司令塔機能を果たしている。
    消費者被害の防止を図るためには、消費者保護関連法制度の改正・見直しを迅速に行う必要があり、今年度も、消費者委員会とともに特定商取引法と消費者契約法の改正の検討を進めている。法改正作業は、消費者庁の担当部署が資料を準備して消費者委員会に出席して説明をし、法案を作成する過程では内閣法制局と頻繁に協議を行い、国会審議にあたっては各政党・国会議員に事前説明するなど、政府関係機関との密接な連携が不可欠である。
    また、高齢者を狙う金融商品まがいの悪質商法被害や食品の安全を脅かす事態などが発生すると、消費者庁が金融庁や厚生労働省と所管法の発動について協議し、既存の法律で対処が困難な事態であれば消費者安全法に基づき消費者庁が対処するなど、関係省庁との迅速な連絡協議が不可欠である。
    消費者庁は、創設されて6年しか経過しておらず、他省庁と比較すれば圧倒的に弱小な組織である。したがって、仮に地方に移転すると、他省庁に対する働きかけの力が低下し、司令塔機能を果たすことが出来なくなるおそれが強い。
    以上のとおり、消費者庁が司令塔機能を発揮し、消費者関連法の迅速な立案を進めるためには、他の政府機関や国会の間近に所在することが不可欠である。
  3. 消費者委員会の関係省庁との意見交換を通じた検証、評価、監視、提言機能
    消費者委員会は、民間人の視点で政府全体の消費者行政の推進について検証、評価、監視、提言する機関として、2009(平成21)年に消費者庁とともに創設され、関係省庁に資料提供や報告を求め、審議のうえ政策提言を行っている機関である。今年度は、消費者契約法専門調査会、特定商取引法専門調査会、特定保健用食品等の在り方に関する専門調査会など法改正を伴う課題について調査、審議を行っている。さらに、毎年、消費者基本計画の実施状況をフォローアップするため、関係省庁のヒアリングを重ねて検証、評価、監視を行っている。まさに、消費者庁と一体となって消費者行政の司令塔機能を発揮しているものと言える。
    こうした関係省庁との意見交換を通じた検証、監視機能を発揮するためには、単にテレビ会議システム等により意見交換が技術的に可能であるということでは足りず、事前の事務レベル打ち合わせを含めて、直接面談し緊密な意見交換を行うことが必須である。つまり、消費者委員会の機能を維持するためには、消費者庁を含む関係省庁と同一地域に所在することが不可欠である。
  4. 国民生活センターの問題提起機能、消費者庁との連携
    国民生活センターは、全国の消費生活相談情報(PIO-NET情報)を集約・分析し、一般消費者や地方自治体に情報を発信するだけでなく、消費者庁や消費者委員会や各省庁の消費者関連法制度の不備や見直しの問題提起を行う機能を担っている。各省庁が消費者関連法の制定・改正を審議するときは、立法事実を明らかにする資料としてPIO-NET情報が不可欠であり、特定商取引法、消費者契約法、割賦販売法などの改正の審議においても、国民生活センター職員がオブザーバーとして審議に参加し報告することが頻繁に行われている。国民生活センターには、消費者庁ほか関連省庁との密接な連携により、政府全体の消費者行政を推進する機能を果たすことが求められているのである。
    また、国民生活センターは、全国の消費生活センター・消費生活相談窓口を支援し、相談、あっせん、ADR、研修、商品テストなどを行う中核機関、センターオブセンターの機能を有しているところ、これらの機能を果たすためには、専門的知見と相談処理の経験豊富な消費生活相談員を多数確保するとともに、担当大臣、連携する各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり、地方移転した場合には十分にその機能が果たせない。
    以上のとおり、国民生活センターがその期待されている機能を果たすためには、消費者庁をはじめとする関連政府機関や国会の間近に所在することが不可欠である。

以上

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