2016.03.15

電子マネーに関する資金決済法改正等を求める意見書

2016(平成28)年3月15日
埼玉弁護士会会長 石河 秀夫

意見の趣旨

第三者型前払式支払手段におけるサーバー型電子マネー(以下,単に「電子マネー」という。)を決済手段とする悪質事業者による被害,及び,電子マネーのID番号等が詐取される被害が多発している実情に鑑み,資金決済に関する法律(以下,「資金決済法」という。)の改正等により,以下の措置を講ずべきである。

  1. 第三者型前払式支払手段発行者(以下,「電子マネー発行業者」という。)に対する加盟店管理義務を徹底させるために,資金決済法を改正し,加盟店契約時における審査加盟店契約締結後の随時審査,苦情発生時の調査・対応をすべき義務について明文化すること。
  2. 電子マネーのID番号等を詐取される被害を防止すべく,資金決済法を改正し,電子マネーの権利(ID番号等)の業としての転売等の禁止等の措置をすべきこと。
    少なくとも,同法ないし古物営業法を改正し,業として転売等を行う事業者に対して,登録・許可制度,買取時の本人確認義務及び疑わしい取引の申告義務について明文化すること。

意見の理由

第1 はじめに

  1. 被害実情
    昨今の消費者トラブルとして,「サクラサイト商法(出会い系サイト商法)」や「情報商材」の事案において深刻な被害が続いている。
    そして,これら被害の特徴として,インクーネット等におけるやりとりによるところ,その決済手段として,クレジットカードとともに,電子マネーが多用されている点にある。
    この点,クレジットカード取引については,割賦販売法により信用購入あっせん業者(以下,「クレジット会社」という。)に対する加盟店管理義務が規定されているとともに,あらたに加盟店契約会社(アクワイアラー)に対する加盟店管理等の義務に関する改正がなされる予定にある(経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会平成27年7月3日付け「報告書」)。
    他方で,電子マネーについては,資金決済法による電子マネー発行業者に対する登録制度表示義務,行政的監督権限などの規制等(同法7条等)は存するものの,その内容は,主として財産保全措置が中心であって,未だに,電子マネーが,詐欺等の犯罪・公序良俗違反ともなる前記サクラサイト商法等の決済手段に利用されている状況があるにもかかわらず,加盟店管理等に関しては,不十分な状態が続いている。
    さらに,電子マネーは,本来の決済手段のみならず,その匿名性を悪用し,消費者から電子マネー発行業者が発行するID番号等を加盟店ではない業者が詐取し転売する被害も多発している(以下,「プリカ詐欺型」という)。
  2. 内閣府消費者委員会における建議
    上記被害実1青に対して,内閣府消費者委員会は,平成27年8月18日,「電子マネーに関する問題についての建議」において,①前払式支払手段(商品券,磁気カード,電子マネー)の市場規模の拡大(約21兆円),②サーバー型電子マネーの発行額の増加(平成22年度の約5兆円から平成25年度の約7兆円へ(約1.4倍)),③電子マネーに関する相談の増加(平成17年度から平成26年度までの間に約80倍に増加)との状況から,金融庁に対して,以下の3つの観点で,建議を行った。
    1. 加盟店管理及び苦情処理体制の整備
    2. プリカ詐欺型への被害防止策
    3. 消費者教育及び1青報提供
  3. そこで,以下,悪質な加盟店を排除し,電子マネー決済の適正化を確保すべく,電子マネー発行業者における加盟店管理の徹底及び苦情処理対応,並びに,プリカ詐欺型の被害防止に向けた対応策に関し,意見を述べるものである。

第2 加盟店管理及び苦情処理対応

  1. 電子マネー発行業者の加盟店管理責任等について,前記建議においては,「金融庁は,電子マネーを利用した取引における悪質な加盟店による消費者の被害の発生・拡大防止及び回復を図るため,電子マネー発行業者に対し,資金決済に関する法律における義務付けを含む,加盟店の管理及び苦情処理体制の制度整備に向けた措置を講ずること。」としている。
    この点,電子マネー発行業者に対する加盟店管理義務は,現行の資金決済法に直接的な規定は存在しないものの,登録制度において,その登録拒否事由(資金決済法10条)に,「購入できる物品等が,公序良俗を害するおそれがないことを確保するために必要な措置を講じていない法人」を掲げ,電子マネー発行業者は,加盟店が公序良俗に反するおそれのある商品・役務を提供することがないように適切な措置を講じることが行政的に義務付けられ,違反行為については,業務停止命令・登録取消事由(同法25条,27条)の対象ともされている。
    このような状況からすれば,既に,電子マネー発行業者に対して,加盟店管理義務を明文化することについての基盤を十分に備えているところである。
  2. また,前記のごとく,割賦販売法により加盟店管理義務が明文化されているクレジット制度との比較においても,販売業者・役務提供業者を加盟店とし,消費者との取引おいて,継続的に決済手段に関与していくという構造は,電子マネー発行業者もクレジット会社と異ならないものである。
    この点,金融庁の金融審議会における平成27年12月22日付け「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ報告~決済高度化に向けた戦略的取組み~」においても,「割賦販売法の見直しの動きも踏まえつつ,消費者被害の実効的な防止・解決策を講じるとの要請に的確に応えていく必要があるものと考えられる。」としてクレジット制度を参考にしているところである。
    そこで,悪質な加盟店を適切に排除するという目的を達成するためには,電子マネー会社に対しても,加盟店管理義務を課すことは必須であるとともに,同義務の内容・程度については,クレジット制度と同等の制度とすべきである。
  3. 現在の割賦販売法における加盟店管理義務は,業務適正化義務の中の苦情の適正処理義務(同法30条の5の2,省令60条)とともに,個別信用購入あっせん業者(個別クレジット)における不適正与信防止義務(同法35条の3の5第1項)を規定している。また,金融庁の資金決済法におけるガイドラインにおいても,登録拒否事由の内容として苦情処理体制の整備等を規定し,下記の項目を定めている(関東財務局が公開している「第三者型発行者登録審査事務チェックリスト」においても同様)。
    1. 加盟店契約を締結する際には,当該契約相手先が公序良俗に照らして問題のある業務を営んでいないかを確認することとしているか。
    2. 加盟店契約締結後,加盟店の業務に公序良俗に照らして問題があることが判明した場合,速やかに当該契約を解除できるようになっているか。
    3. 加盟店が利用者に対して販売・提供する物品・役務の内容について,加盟店契約締結時に確認した事項に著しい変化があった場合に当該変化を把握できる体制を整備しているか。
    4. 各加盟店に対して,前払式支払手段の使用実績について,一定期間ごとに報告を求めることとしているか。また,加盟店からの使用実績について管理している部署とは別の部署が,当該報告を受けた支払金額の正確性について検証する体制となっているか。
    しかしながら,登録拒否事由の位置付けにより具体的内容はガイドラインに規定する構造では,法的義務の実効性が不十分であると考えられるため,加盟店調査・管理義務を具体的行為規制として規定すべきである。
    また,加盟店管理義務の内容面についても,加盟店契約締結時の初期審査が重要ではあるものの,同時点の審査のみでは,当言劾曜店が,如何なる事情実態にあるのかを必ずしも適切に把握することは困難な場合も存するとともに,そもそも,その後の事業内容の変更等がなされることも少なくない。
    何より,実際に加盟店と取引をしている消費者等からの苦情等の情報は,加盟店の実態を把握する上において,極めて重要な情報であって,同苦情に対する適切な対応をすることは,当該消費者に対する被害救済のみならず,加盟店を管理する場合においても求められることである。
    そこで,電子マネー発行業者に対して,悪質加盟店を排除するために,割賦販売法におけるクレジット会社への加盟店管理義務,及び,資金決済法のガイドライン等に照らし,加盟店契約締結時おける審査のみではなく,契約締結後の定期的な審査,並びに,消費者から電子マネー発行業者に対する苦情が発生した時における対応をすべき義務が求められるものである。
    そして,これら電子マネー発行業者の義務は,これまで被害が改善されていない状況からすれば,単なるガイドライン等による体制整備の追加のみではなく,法律上の行為義務として明確にすべきである。
  4. 以上の観点より,具体的には,以下のような加盟店管理義務にっいて,資金決済法を改正し,明文化すべきである。
    1. 加盟店契約締結時の義務
      電子マネー発行業者は,加盟店との間で,前払式支払手段に係る契約を締結しようとする場合には,その契約の締結に先立って,加盟店に関する名称,住所,電話番号,代表者氏名,特定取引・商品等の種類,苦情処理体制などの事項を調査しなければならない。
    2. 加盟店契約締結後の義務
      電子マネー発行業者は,加盟店契約締結時に確認した事項に関する著しい変化の有無について,一定期間(半年から1年程度)ごとに調査をしなければならない。
    3. 苦情発生時の義務
      1. 電子マネー発行業者は,利用者(前払式支払手段の保有者)の利益の保護を図るため,その利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じなければならない。
      2. 電子マネー発行業者は,利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じるときは,次の各号に定めるところによらなければならない。
        1. 利用者からの苦情を受け付けたときは,遅滞なく,当該苦情に係る事項の原因を究明すること。
        2. 原因究明により知った事項からみて,当該謝青の内容に応じ,当該苦情の処理のために必要な事項を調査すること。
        3. 調査の結果に基づき,加盟店契約の解除,決済の停止,利用者への調査結果の情報提供・返金等の対応をすること。

第3 プリカ詐欺型の被害防止

  1. プリカ詐欺型被害にっいて,前記建議においては,f金融庁は,消費者が電子マネーのIDを詐取されることによる被害を防止するため,以下の措置を講ずること。」としている。
    1. 消費者が電子マネーを詐取される被害が発生している電子マネー発行業者に対し,各発行業者のウェブサイトや販売時における注意喚起の表示,販売上限額の引き下げなどの販売方法の見直し並びに被害発生状況のモニタリング及び分析を通じて消費者の被害の予防及び救済に向けた取組を促すこと。
    2. 経済産業省,警察庁,消費者庁と連携し、電子マネーを販売する事業者に対し,電子マネーの販売店において高額又は大量の電子マネーを購入しようとする消費者に対して,従業員から注意喚起の声かけを行うことなどにより,電子マネーを詐取しようとする者に支払うことを目的とした電子マネーの購入を未然に防ぐ取組について協力を要請すること。
  2. 確かに,消費者に対する注意喚起,関係機関との協力関係等は,被害の未然防止の観点においては,重要なことである。しかし,上記建議は,電子マネーが事実上現金化可能になっており,それがプリカ詐欺型被害の拡大に寄与していることへの対応が含まれていない。
    電子マネーの現金化については,現在の法制度や事業者の運用において,次のような現状となっている。
    1. 資金決済法において電子マネー発行業者による払戻が原則禁止されている(同法20条2項)。
    2. 電子マネー発行業者の多くは,原則として,ID番号等(権利)の第三者への譲渡・転売を禁止している。
    3. 電子マネーの多くは一度の使用により権利が清算されるクローズドループ型である。
    以上からすると,表向きは(本来であれば)現金化できないようにも思われる。しかし,現実には,詐取されたID番号等の買い取り・転売をする業者(以下,「RMT業者」という。=Real Money Trade)が存在し,これらのRMT業者に権利の譲渡等をすることによって現金を得ることが可能になっている。このように,RMT業者を通じた現金化の途が用意されていることが,プリカ詐欺型被害の増大につながっている。
    また,他の決済手段である銀行振込やクレジットカードなどにおいては,口座開設や会員登録において,厳格な本人確認がなされていることに対して,電子マネーにおいては,匿名性を維持したままの発行・譲渡・転売をなしうるものであって,事実上の資金移動を可能とするのみならず,マネーロンダリングの観点でも問題があるものである。
    さらに,匿名性を維持したまま譲渡・転売できることから,犯人を特定することも極めて困難となる。結果として,悪質業者等にとっては,被害者から電子マネーのID番号等を詐取することが最も容易に利益を得る手段となっている。
    そこで,プリカ詐欺型の被害を防止するためには,RMT業者への規制も含めた被害実態全体に対する検討を行うべきである。
  3. 以上の観点より,具体的には,クローズドループ型は,権利が転々流通することを想定されていないことからして,現在の匿名性を維持しつつも,少なくとも業としての権利の転売等(売買以外の交換,売買等の委託を受ける,市場経営,インターネット上の競りなどt)含む)を禁止すべきである。権利の転売等は,元々,各電子マネー発行業者の規約等で禁止されていることから,これは決して行き過ぎた規制ではない。
    他方で,転々流通することが前提とされるオープンループ型においては,その機能として,現実の貨幣と同様の機能を有するものであって,預金における口座開設同様に,取引時(購入時)における電子マネー発行業者に対する本人確認義務を課すべきである。
    また,仮に,権利の転売等を禁止し得ないということであれば,RMT業者に対して,動産である前払式支払手段(商品券等)に対する古物営業法と同様の規制として,資金決済法ないし古物営業法を改正し,RMT業者の登録・許可制(古物営業法3条等参照),買取時等における本人確認義務(同法15条1項,21条の2参照),及び,疑わし取引の申告義務(同法15条3項,21条の3参照)を課すべきである。
    なお,同被害に関しても,消費者から電子マネー発行業者に対する苦情の申立があった場合には,前記加盟店管理義務に基づき,苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置(消費者への情報開示を含む)を講じるべきものとすべきでもある。

以上

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