2016.09.26

「テロ等組織犯罪準備罪」~その実態は「共謀罪」~法案の国会への提出に反対する会長声明

今般、報道によれば、政府は、2003年から2005年にかけて3回に渡り国会に提出し、世論の強い反対のために廃案になった共謀罪創設規定を含む法案について、「共謀罪」を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を改め、今臨時国会に提出することを検討している。
政府が新たに提出する予定とされている法案(以下、「提出予定法案」という。)は、国連越境組織犯罪防止条約(以下、「条約」という。)締結のための国内法整備として立案されたものであるが、その中では、「組織犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」を新設し、その名称を「テロ等組織犯罪準備罪」とした。また、2003年の政府原案において、適用対象を「団体」としていたものを「組織犯罪集団」とし、また、その定義について、「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とした。更に、犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし、その処罰に当たっては、計画をした誰かが「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件を付した。
提出予定法案における「計画」とは、「犯罪の合意」を意味し、結局のところ、特定の犯罪を複数人で謀議したという「共謀」を処罰することと同じく、行為そのものではなく、「合意」の危険性に着目して処罰しようとするものに他ならない。このため、提出予定法案の基本的性格は、過去に廃案となった共謀罪創設規定を含む法案と何ら変わってはいない。
更に、「組織犯罪集団」を明確に定義することは困難であり、「準備行為」にしても、予備罪・準備罪における予備行為・準備行為よりも以前の段階の危険性に乏しい行為まで幅広く含みうるものであり、その適用対象が広範に及ぶ。
その処罰の対象は、個人の内心に強く関わりを持つ以上、捜査機関による捜査は、個人の会話、電話、メール等の日常的なやり取りにまで広く及び、常に国民が捜査機関の監視の目にさらされることになりかねず、国民のプライバシー侵害を招来する危険がある。
また、国民はいつどのような会話が捜査機関の摘発対象となるのか予測がつかず、萎縮して言論活動や団体活動をせざるを得なくなり、国民の内心の自由は勿論、言論の自由・結社の自由等の憲法上保障された国民の基本的人権を侵害する危険性が含まれる。
また、共謀罪の対象犯罪数については、2007年にまとめられた自由民主党の小委員会案では、約140から170としていたものを、提出予定法案では政府原案同様に600以上に犯罪数を増加させて、「テロ等組織犯罪準備罪」を設けることとしており、国民の内心の自由その他の基本的人権への影響は極めて広範なものとなる。
政府は、テロ等組織犯罪準備罪の新設につき、条約を批准するために必要であると説明するが、そもそも、条約は経済的組織犯罪を対象とするものであり、テロ対策とは本来無関係のものである。また、組織的犯罪集団の関与する重大な犯罪について、既に特別法などで合意により成立する犯罪を未遂以前の段階から処罰する立法が我が国においてなされており、新たな立法は必要ない。従って、条約締結のための国内法整備を理由とし、提出予定法案を提出することには合理的な理由が認められない。
更に、民主党が2006年に提案し、一度は与党も了解した修正案では、犯罪の予備行為を要件としていただけではなく、対象犯罪が国境を越えて実行されるという越境性も要件とすることで、対象犯罪を限定していたものであるが、提出予定法案は越境性を要件としていない。このため、対象犯罪の限定がなされないばかりではなく、そもそも越境組織犯罪の抑止を目的とする条約締結のための国内法整備という理由すら存在しなくなる。
以上のとおり、上記のような提出予定法案は、実行行為の危険性が乏しい準備行為をも処罰の対象とするなど刑事法体系の基本原理に矛盾し、処罰対象が広範であることも相俟って、基本的人権の保障を大きく阻害するものである。
よって、当会は、提出予定法案の国会提出に対し、反対するものである。

以上

2016(平成28)年9月26日
埼玉弁護士会会長  福地 輝久

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