2016.12.14

死刑執行に対する会長声明

  1. 2016(平成28)年11月11日,死刑確定者1名に対して死刑が執行された。
    現政権では,10度目,合計17名の死刑が執行されたこととなる。
    当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。
  2. 1989(平成元)年の国連総会において,自由権規約の第2選択議定書,いわゆる「死刑廃止条約」が採択されている。その後,死刑制度を廃止する国は増加の一途をたどっており,2014(平成26)年の国連総会では,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が117か国の賛成により採択されている。今日に至っては死刑制度の廃止こそが疑うことない国際的潮流である。
    しかし,日本政府は,「死刑廃止条約」を批准せず,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議に反対している。国際的潮流に逆行して死刑制度を存続させたまま,今回の死刑執行を断行したのである。
  3. 日本弁護士連合会は,2011(平成23)年の人権擁護大会において,「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を採択した。同宣言において,死刑のない社会を見据え,死刑制度に対する全社会的議論の喚起を図った。
    また,2016(平成28)年の人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択した。同宣言において,刑罰制度全体を,罪を犯した人の真の改善更生と社会復帰を志向するものへと改革することを求め,国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020(平成32)年までに死刑廃止を目指すことを確認した。
    日本が国際社会で名誉ある地位を占め続けようとするのであれば,今こそ,死刑廃止に向けて全社会的議論を深めるべきである。
  4. 当会においても,これまで繰り返し政府に対し,死刑制度に対する全社会的議論を尽くし,その議論の集約が十分にできるまで再び死刑を執行することがないよう強く求め続けてきた。2016(平成28)年9月6日,当会では,日弁連人権擁護大会プレシンポジウムとして,「映画『ふたりの死刑囚』上映会~鎌田監督と考える 死刑とは,刑罰とは~」を開催した。同映画は,冤罪を訴え続けたふたりの死刑囚,袴田巌氏及び奥西勝氏とその家族の人生をとおして,現実に冤罪の危険があること,冤罪で死刑が執行されてしまえば決して取り返しがつかないことを如実に示している。
    このようなことを生じさせないためには,死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革について,一刻も早く全社会的議論を尽くす必要がある。
  5. 2014(平成26)年に実施された死刑制度に関する政府の世論調査では,「死刑もやむを得ない」との回答が80.3%であった。しかし,そのうち40.5%は「将来的に死刑を廃止してもよい」としている。また,全回答者のうち37.7%は,仮釈放のない終身刑が導入されるならば「死刑を廃止する方がよい」と回答している。このように死刑制度を巡って世論は悩み考えているのであり, 死刑制度について全社会的議論をするための土壌は十分に醸成されている。政府は,全社会的議論を深めて,死刑廃止を含む刑罰制度の実現を目指すべき時期にあることを十分に自覚すべきある。
  6. 以上から,当会は,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,改めて政府に対し,死刑廃止の実現に向けた全社会的議論を行うこと,及び上記議論が尽くされるまでの間,全ての死刑の執行を停止することを強く求める。

以上

2016(平成28)年12月14日
埼玉弁護士会会長  福地 輝久

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