2015.11.17

接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の東京高裁判決に抗議する会長声明

2015(平成27)年11月17日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

  1. 本年7月9日、東京高等裁判所は、東京弁護士会所属の弁護士が弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害するとして提起した国家賠償訴訟において、国に10万円の支払いを命じた原告一部勝訴の原判決を取り消し、請求をすべて棄却する旨の判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
  2. 本件は、拘置所で勾留中の被告人と接見していた弁護人が、被告人の健康状態に異常を認めてデジタルカメラで被告人を写真撮影したところ、拘置所職員が、当該写真の消去を求めた上、これを拒否した弁護人の接見を中止させたというものである。
    すなわち本件は、弁護人が接見中に弁護活動として被告人を写真撮影したことを理由に刑事施設が接見を中止したものであり、まさに国家権力による接見交通権や弁護活動の自由の侵害が問題になる事案であるが、本判決には以下のとおり重大な問題があり、不当な判断といわざるをえない。
  3. 1点目は、接見交通権の範囲を極めて狭小に捉える点である。
    すなわち本判決は、接見とは面会と同義と解されるなどの理由から、「接見」とは弁護人との会話による面接を通じて援助を受けることをいうと判示し、写真撮影ばかりか、メモ以外の接見中の記録化のための行為につき当然には接見交通権の範囲に含まれないとした。接見時の被告人の健康状態その他接見内容を記録化するといった接見に付随する行為さえ、当然には接見交通権の範囲内と認められないとする本判決の判断は、接見交通権の範囲を極めて狭小に制限し、弁護人の弁護活動ひいては被疑者・被告人の弁護を受ける権利を全うすることを困難とするものであり、明らかに失当である。
  4. 2点目は、接見交通権や弁護活動の自由につき、刑事施設が実質的な理由なく制約することを許容する点である。
    すなわち本判決は、被疑者・被告人の逃亡や罪証隠滅のおそれが生じる相当な蓋然性の有無を具体的事情に照らし判断するまでもなく、刑事施設長が庁舎管理権にもとづき刑事収容施設法上の規律及び秩序を害する行為にあたると判断すれば、そのことのみをもって接見中止措置を執ることを適法とした。本判決は、刑事施設の規律・秩序維持という名目をもってすれば、被疑者・被告人の弁護を受ける権利及びそのために最大限保障されるべき接見交通権がいかように侵害されてもやむを得ないというに等しい。被疑者・被告人の人権保障という刑事訴訟法の目的を忘却したかのような本裁判体の感覚には、深く失望せざるを得ない。
  5. 当会は、被疑者・被告人の弁護を受ける権利を十分に保障すべく認められた弁護人の接見交通権と弁護活動の自由は最大限保障されるべきことを表明し、本判決に抗議するとともに、これを制約しようとする刑事施設の行為を断固許さない。

以上

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