2015.08.18

個人番号(マイナンバー)通知カードの交付延期を求める会長声明

2013年5月24日,「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」をはじめとする個人番号(マイナンバー)関連4法が成立し,来年1月より個人番号(マイナンバー)制度が開始される予定である。
これに先立ち,国は,本年10月から12桁の個人番号(マイナンバー)を通知カードによって国民に通知することとしている。そして,この通知カードは2015年10月5日の時点での住民票上の住所地に送付される(総務省ホームページより)。
ところで,上のような交付の方法では,住所変更が難しい者(配偶者からの暴力等による生命身体の危険のために住民票上の住所地から離れて生活することを余儀なくされているDV被害者,別居はしているものの離婚問題が解決するまで住民票を移動することが出来ない者,被災して遠方で生活している者,長期入院中の者など)は,自分の通知カードを受領できないことになる。
そうすると,自己の通知カードが住民票上の住所地へと送付されてしまう結果,例えば,DVの加害者である相手方配偶者や離婚問題で対立している相手方配偶者がこれを受領した場合に,その受領者が本人に対して通知カードの引渡しを拒否するなどの問題が多発することが予想される。また,被災者や長期入院中の者などについては,住民票上の住所地において第三者が通知カードを受領することにより,なりすましの危険等が発生することが予想される。このような問題については,自治体からも懸念する声が出されていた(都政新報2015.7.28)。
これに関し,総務省は,本年8月7日付で『やむを得ない理由により住所地においてマイナンバーが記載された通知カードを受け取ることができない方へ~居所で受け取るために居所情報を登録してください~』という報道資料をホームページ上で公開し始めた。その内容としては,「①東日本大震災による被災者②DV,ストーカー行為等,児童虐待等の被害者③一人暮らしで,長期間医療機関・施設等に入院・入所されている者,などの方は,居所に送付することが可能です」とするものであり,居所での通知カードの受取りを可能とした点では一定の評価をすることができる。
しかしながら,同ホームページでは,上記の申請期間として「平成27年8月24日(月)から9月25日(金)までに(持参又は必着)」とされている。このような差し迫った時期に,しかも1ヶ月という極めて短い申請期間では,DVや離婚問題等で住民票上の住所地から離れている多数の者に周知させて手続をさせることは到底不可能である。しかも,国は,かかる申請手続をホームページで公開し,一部の報道機関に配布した程度と思料され,テレビ・ラジオ等のマスメディアを用いて申請手続の存在を大々的に周知徹底させるような活動をしている形跡もない。
かかる状況からすれば,たとえ居所へ通知カードを送付する手続が設けられたとしても,その周知の期間及び方法として不十分であることは火を見るより明らかである。
また,居所登録申請の対象自体についても,列挙されている①乃至③の事由以外で如何なる場合に申請が認められるのか不明瞭であり,例えば,海外赴任中であるが住民票をもとの住所地に残したままの者や多重債務等の理由から住民票登録・移動を躊躇せざるを得ない者等が,今後,様々な手続きにも必要となる個人番号(マイナンバー)の通知を受けられず,行政サービスから排除されかねない事態も懸念される。
これまで,当会は,個人番号(マイナンバー)制度の廃止を含めた見直しの検討を求めるとともに,同制度の開始の延期を求めてきた(2013年5月23日付会長談話,2015年5月14日付会長声明)。そして,上記の通り,通知カードの交付に関してでさえも多くの問題を含んでいることは明白である。
以上より,当会は,少なくとも,DVや離婚問題,被災や長期入院その他の必要から已むなく住民票上の住所地から離れて生活をしている者に対して上記申請手続が十分に周知され,かつ,申請手続が遅れた者等にも適切な手当てが用意されるなどの国民が安心して利用できる制度が構築されるまでは,国民への通知カードの交付を延期するよう強く求める。

以上

2015(平成27)年8月18日
埼玉弁護士会会長  石河 秀夫

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