2013.09.19

質屋営業法の改正を求める意見書

第1 意見の趣旨

近年,質屋営業の形態を装いつつ,無価値あるいはほぼ無価値な物品を質物として預かり金員を貸し付ける偽装質屋による被害が多発していることに鑑み,質屋営業法を以下のとおり改正するよう求める。

  1. 流質期限経過後の弁済の履行の請求を禁止する旨明文で定め,これに違反した場合の罰則を設けるべきである。
  2. 流質期限経過前においても,質置主(借主)に流質の選択権を認め,流質を選択した場合の弁済の履行の請求を禁止する旨明文で定め,これに違反した場合の罰則を設けるべきである。
  3. 弁済に際しては,流質処分を選択できること,流質後は借受金の弁済義務を負わない旨の質置主に対する告知を義務付けるべきである。
  4. 弁済について,店頭払を原則とし,金融機関等の自動引落その他自動決済システムを利用することを禁止するべきである。
  5. 貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)の規定とその罰則(同法48条)と同様の規定を設けるべきである。
  6. 質屋に認められた特例高金利(年109.5%)は撤廃する方向で検討するべきである。

第2 意見の理由

  1. 近年,質屋営業の形態を装いつつ,無価値あるいはほぼ無価値な物品を質物として預かり,金員を貸し付ける偽装質屋による被害が多発している。
    偽装質屋は,上限年109.5%という質屋営業法による特例高金利を悪用し,出資法の上限金利規制を超える高金利を貸し付けるとともに,年金等の公的給付の受給者については給付金の入金口座から自動振替により貸付金を回収することで,禁止されている年金担保貸付を潜脱するものである。
    この自動振替は,本来であれば借受金の弁済義務が消滅する流質期限経過後も継続する場合もあり,そもそも,質置主(借主)は質物をもって弁済に充てる(流質)か弁済して質物を受け戻すかの選択権があるにもかかわらず,自動振替によって弁済が事実上強制される点においても,その悪質性は到底看過されるべきものではない。
  2. かかる悪質な金融の隠れ蓑として質屋営業の形態がとられるのは,現行の質屋営業法の規制に不十分な点があるからであるから,質屋営業法は以下のとおり改正されるべきである(以下,「意見の趣旨」の各項に対応する)。
    1. 具体的な改正項目
    2. 質屋契約は,流質期限後は質置主が流質を甘受する限り,質物の所有権が質主へ移転して借受債務が消滅し,質屋に対して借受金の弁済義務を負わないという契約である。
      したがって,流質期限経過後は流質の選択が当然に認められるべきであって,弁済の履行を請求することは許されず,これを禁止する旨明文で定め,違反した場合の罰則を設けるべきである。
    3. そして,このような質置主の流質選択の自由は流質期限前においても認められるべきであり,これによって質主が不利益を被ることもないのであるから,流質期限経過前においても,質置主に流質の選択権を認め,流質を選択した場合について,前記(1)と同様,弁済の履行を禁止する旨明文で定め,これに違反した場合の罰則を定めるべきである。
    4. さらに,流質選択の機会を実質的に保障するために,弁済に際しては,流質処分を選択できること,流質後は借受金の弁済義務を負わない旨の質置主に対する告知を質屋に義務付けるべきである。
    5. また,本来の質契約は,質置主が元利金を弁済する場合には質物を受け戻すことができなければならないところ,銀行預金からの自動引落としによる弁済を継続させるということは流質を予定していないことを意味し,質契約の意義からして背理であるから,弁済については自動引落としによる支払ではなく、店頭払が原則となるべきである。また,質置主には本来,流質させるか,元利金を弁済して受け戻すかを選択できるのであるが,銀行の自動引落しで支払を強制されてしまうことは,取りも直さず,質置主の流質の選択の機会を喪失させることを意味するから,これを否定すべきである。
      以上のとおり,質置主の流質を阻害させないためにも,店頭払を原則とし,質置主の意思にかかわらず弁済がなされてしまう金融機関等の自動引落その他自動決済システムを利用することは禁止するべきである。
    6. 質契約は,質物を対象として締結されるものであり,権利質は認められないから,年金を質物として質契約を締結することはできない。ところが,貸金業法20条の2(公的給付に係る預金通帳等の保管等の制限)は,質屋営業法には明示的には適用がない。
      質屋営業においても,貸金業法と同様の規制を及ぼすべきであるから,貸金業法20条の2の規定とその罰則(同法48条)と同様の規定を設けるべきである。
    7. 質屋に認められた特例高金利(年109.5%)は,出資法が定める上限金利規制の唯一の例外である。
      現行法がかかる定めを設ける理由については,一般に,質物の保管や管理にコストがかかるためと説明されている。しかしながら,質屋契約においては,上記のコストは質物の評価に反映されていることが通常であるし,質物を担保にとることにより債権の回収は確実であることに鑑みると,質屋についてのみ,例外を認める合理性は存在しない。
      むしろ,質屋営業法がかかる高金利を定めていることが偽装質屋の温床となっているのであるから,質屋に認められた特例高金利は撤廃し,特例高金利が必要であるかも含めて今後検討するべきである。

以上

2013年(平成25年)9月19日
埼玉弁護士会会長  池本 誠司

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