2022.08.12

死刑執行に抗議する会長声明

  1.  2022年7月26日,古川禎久法務大臣の命令により,死刑確定者1名に対する刑の執行がなされた。前回2021年12月の執行に続く死刑の執行であり,岸田政権発足後4人目の執行である。
     今回執行された者は,再審請求中であったとされる。確定判決であっても誤判の可能性が皆無でない以上,再審請求の機会は十分に保障されなければならず,その機会を奪うことは適正手続(憲法31条)の観点からも問題がある。

  2.  死刑は,国家が人命を奪い,これにより人が享有するすべての権利・自由を剥奪する刑罰である。それゆえ,死刑は究極の人権侵害制度である。しかも,誤判や冤罪の危険が常につきまとう現在の刑事司法制度の下では,死刑は取り返しのつかない結果を招来するものであり,このことは死刑確定後の再審により無罪が確定した過去4件の事件(免田,財田川,松山,島田事件)からも明らかである。
     このように,死刑が生命権侵害という究極の人権侵害を内包する刑罰である以上,基本的人権の尊重という憲法の最高価値を実現する観点からは,死刑制度の廃止を志向すべきである。

  3.  世界各国の状況をみると,2021年12月末現在,すべての犯罪に対して死刑を廃止した国は108か国,通常犯罪のみ死刑を廃止した国は8か国,事実上,死刑を廃止している国は28か国であった。死刑制度を残し,実際に死刑を執行している国は世界的にも少数となっている。
     死刑廃止は世界的な潮流と言え,日本政府は,これまで国連の自由権規約委員会,拷問禁止委員会,人権理事会及び欧州評議会等から,死刑執行を停止し,死刑廃止を前向きに検討すべきであるとする勧告を重ねて受けている。しかしながら,日本政府は,未だに死刑に関する情報の十分な公開もせず,全社会的議論の土壌すら与えようともしない。このような日本政府の態度は,国際協調主義の精神・趣旨(憲法98条2項)に悖るものであり,厳しく批判されなければならない。

  4.  当会は,2020年3月,死刑が憲法の諸規定に抵触し,あるいはそれらの趣旨と整合しない刑罰というべきであるとともに,誤判・冤罪の懸念が払拭し得ないものであることなどから,日本政府及び国会に対し,すべての死刑確定者に対する執行を即時に停止し,死刑を廃止するための法的措置を直ちに講じることを求める総会決議を発している。これまでも死刑執行の度に,会長声明を発し,すべての死刑執行を停止すべきことを求めてきた。こうした中で行われた今回の死刑執行に対し,改めて強く抗議する。

  5.  犯罪により命が奪われた場合,被害者の失われた命はかけがえのないものであり,これを取り戻すことはできない。その重大な被害に対し,極刑を求める犯罪被害者・遺族(以下「犯罪被害者等」という。)の心情は重く受け止めるべきである。本来,犯罪被害者等の精神的苦痛の緩和のみならず,犯罪被害遭遇後に犯罪被害者等が陥る経済的困窮からの回復を含め,犯罪によって損なわれた平穏な生活を回復するための諸施策を構築することこそが,憲法25条及び13条に照らして,極めて重要な国及び地方公共団体の責務である。犯罪被害者等の被害回復ないし権利擁護は,死刑存廃の如何に関わらず,早急に取り組むべき人権課題として捉えることが重要である。

  6.  以上から,当会は,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,改めて日本政府及び国会に対し,すべての死刑確定者に対する執行を即時に停止し,死刑を廃止するための法的措置を直ちに講じることを強く求める。

以上

2022(令和4)年8月12日
埼玉弁護士会 会長 白鳥 敏男

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