2022.08.12

生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明

  1.  国は、2013年8月から3回に分けて生活保護基準の引下げ(以下「本引下げ」という。)を断行した。これに対して、本引下げが生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、保護費を減額した処分の取消しを求めた訴訟がさいたま地方裁判所を含め、全国29の地方裁判所に提起されたところ、近時、本年5月25日に熊本地方裁判所で、本年6月24日に東京地裁裁判所で、それぞれ原告らの請求を認める判決が下された。既に12の地方裁判所で判決が言い渡されているところ、原告らの請求を認めた判決は、昨年2月の大阪地方裁判所判決に続いて3例となった。

  2.  本引下げは、一般低所得世帯の生活水準を比較して生活保護基準を調整する「ゆがみ調整」と、物価下落による影響を考慮して生活保護基準を調整する「デフレ調整」という2つの理由により行われた。
     しかしながら、厚生労働大臣は、これら2つの調整を行う上で、厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会生活保護基準部会による分析及び検討を経ることなく、厚生労働省独自の判断で行っていた。そのため、計算の基礎となった数値が恣意的に作られていたり、計算結果を適切に反映していなかったりするなど、多数の問題をはらむ基準改定であった。
     そのような恣意的な検討の結果、本引下げは、合計670億円にも及ぶ史上最大の引下げ処分となった。

  3.  原告らの請求を認容した熊本地方裁判所判決は、「ゆがみ調整」と「デフレ調整」のいずれについても生活保護基準部会に諮問していないことを指摘し、専門的知見に基づく適切な分析及び検討・検証を怠ったと述べ、判断過程に過誤、欠落があると認められ違法であると判断したものである。
     東京地方裁判所判決は、「デフレ調整」については、専門家によって構成される会議体による審議検討を経たものでないため、被告側で十分な説明をすることを要するが、被告らの説明を踏まえても「デフレ調整」の必要性も相当性も認められないと述べ、判断過程に過誤、欠落があると認められ違法であると判断したものである。
     上記両判決は、専門家の意見を考慮しない「行政裁量」に基づく本引下げに対し、司法統制を及ぼしたものであり高く評価できる。また、当会は、2012年10月26日、「生活保護の給付基準切り下げに反対する会長声明」を発して本引下げに反対しているところ、上記両判決は、当会の見解に沿うものであり、正当といえる。

  4.  現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や物価の急激な上昇といった社会情勢の変化に伴い、生活に困窮する方々が増え、最後のセーフティネットとしての生活保護の重要性はますます高まっている。
     よって、当会は、国に対し、上記両判決の意義を重く受け止め、現在の生活保護基準を見直し、少なくとも2013年8月以前の生活保護基準に早急に戻すことを求める。

以上

2022(令和4)年8月12日
埼玉弁護士会 会長 白鳥 敏男

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