2023.03.08

入管法改正案に反対する会長声明

  1.  政府は、2023年3月7日、通常国会において、出入国管理及び難民認定法改正案(以下、「入管法改正案」という。)を提出した。
     この入管法改正案は、2021年に廃案となった入管法改正案の大枠を維持したままで、再提出が行われた。しかし、2021年に上記法案が廃案となったのは、これが複数の重大な問題をはらんでおり、それらについて一般市民を含め国民から反対の声が強くあがったからにほかならない。にもかかわらず、十分な検討もせず、抜本的な修正もなく再度法案を提出したことは、国民の声を軽んじるものである。
     当会は2020年9月9日付会長声明によって、2021年の法案の元となった「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」の問題点を指摘していたが、改めて再提出された入管法改正案に対して、反対の意見を表明する。

  2.  入管法改正案には複数の問題点があるが、我々が特に問題と考えるのは、3回目以降の難民認定申請者については、難民認定申請者の送還が停止されるという送還停止効を原則として適用しないとしていることである。これは、この送還停止効を利用して送還から逃れる者(いわゆる濫用的申請者)を送還可能とするためであるとされている。

  3.  しかし、日本においては、難民認定を求めて複数回申請をする者が難民認定制度を濫用しているということはできない。なぜなら、日本の難民認定制度は、極めて厳格に運用されており、諸外国と比べても難民認定率は極めて低い。その原因の一つは、日本政府が、難民条約に規定されている「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」という要件について、"当事者が迫害主体から個別的に把握され、狙われていなければならない"とする極めて限定的な独自の解釈(個別把握論)をしていることである。
     そのため、日本においては、本来難民として認定されるべき人々が認定されていないのが実態であり、帰国すれば危険が及ぶために帰国できない難民申請者らは、保護を求めて何回も繰り返し申請をせざるを得ないのである。
     また、幼少期に両親に連れられて来日したり、日本で出生した未成年の難民申請者も、厳格な難民認定制度の運用によって不認定となるため、再申請を繰り返すことになる。その結果、10代の未成年者であっても、3回目以降の申請であることは珍しくない。
     このように、難民申請を繰り返している難民申請者の多くは、送還停止効を濫用しているのではなく、真に難民としての庇護を求めているのである。

  4.  難民条約では、本来難民として認定されるべき者を「生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域」へ送還してはならないという「ノン・ルフールマン原則(同条約第33条第1項)」が規定されている。同原則は、締約国に対して迫害を受けるおそれが高い領域への送還を停止させることにより、難民認定申請者の生命や自由を保護することを目的とした極めて重要な原則である。
     しかし、入管法改正案は、上記3で述べたような複数回申請者に対して、ノン・ルフールマン原則の例外を設け、難民申請者を本国へ送還可能とするものであり、彼らの生命と自由を危険にさらすものである。極めて低い難民認定率を維持する現行の難民認定制度を改善しないまま、そのような改正を行うことは、本末転倒であり、難民条約の締結国としての義務を怠るものといえる。

  5.  埼玉県内には、クルド人を含めた多くの難民申請者が居住しており、そのほとんどは複数回申請者である。そして、前述した未成年の難民認定申請者が多数存在し、その多くは、すでに日本で就学しており、国籍国での生活の経験もなく、国籍国の言語習得も不十分である。入管法改正案は、こうした難民認定申請者の送還をも可能とするものであり、人道的な観点からも到底看過できないものである。
     したがって、当会は、以上のような問題点を抱えたままで再提出された入管法改正案に断固反対する。

以上

2023(令和5)年3月8日
埼玉弁護士会 会長 白鳥 敏男

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